番外編

1957年。冷戦による緊張が高まりつつある中、人々はいつ勃発するか分からない核戦争に怯える日々を過ごしていた。そんな中で世界中の核を回収するために宇宙からやって来た全身タイツのイカす奴、それが本シリーズの主人公スーパージャイアンツである。マシンガンも物ともしない丈夫な体、高速移動する円盤にも楽々追いついてしまう脅威の飛行能力、そして宇宙空間でも自在に声を出せるという現代科学の常識を飛び越えた力(おいおい)まで兼ね備え、常に敵を圧倒し続ける。今回は番外編として、そんな彼が活躍するシリーズ全九作を紹介し、シリーズ全般に関する考察などを行っていきたい。

ではまず、本シリーズの簡単な説明を行おう。このシリーズを製作した新東宝は今やすっかりエロ映画会社と化してしまったものの、この頃はまだ「東海道四谷怪談」など数多くの娯楽映画を製作していて景気が良かった。本シリーズを通して感じられる痛快ヒーロー活劇というスタンスも、当時の新東宝の雰囲気を十分に感じさせてくれることだろう。
本作の1〜6作目を監督したのは、今や「恐怖奇形人間」「地獄」ですっかりカルト映画の監督と化してしまった石井輝男である。新東宝で働いていた石井輝男は、つい数ヶ月前に「リングの王者 栄光の世界」で初監督をしたばかりで、本シリーズの一作目を製作した時点では、まだ映画監督としては無名に等しかった。しかしこの頃から既に彼の独特すぎる映像世界が作品に表れており、特に3作目の乱闘シーン、4作目の恐怖描写は今の彼の姿を想起させるに十分足るものだろう。
7作目を監督した三輪彰は、「リングの王者 栄光の世界」で助監督をし、また本シリーズでも初期の作品の助監督を行っている。後に東映に移った石井輝男と違って新東宝に居座りつづけた彼は、ちょうど新東宝の成年映画路線に直面し、後に何本かの成年映画を撮ることになった。
8〜9作目を監督した赤坂長義は、それまで本シリーズの製作にはあまり携わっていなかったものの、横溝正史原作の「人形佐七捕物帖」シリーズの脚本を何作か手がけており、その実力を買われたものと思われる。
それでは、全作品のあらすじを紹介していこう。


メラポリア国編(第1作、第2作)

スーパージャイアンツ 鋼鉄の巨人        「評価 C」

世界各地で頻繁に行われている核実験。これによる放射能の影響は地球だけでなく遥か宇宙にまで及び、宇宙人達は頭を悩ませていた。そこで彼らは地球の原水爆を全廃させるために超人スーパージャイアンツを派遣する。地球に到着して早々、ウラニウムを運んでいた黒服の男を捕まえようとするスーパージャイアンツだったが、乱闘のドサクサに紛れてウラニウムが入っているカバンが近所の子供達に奪われてしまった…。

続鋼鉄の巨人 スーパージャイアンツ      「評価 B」

スーパージャイアンツからウラニウムを預けられた町の教会に、メラポリア国の工作員達(つまり前作出てきた黒服の男の仲間)がやってきた。神父や子供達は隠し場所を教えなければ殺人光線で殺すと脅され、敢え無くウラニウム入りのカバンを敵の手に渡してしまう。それを知ったスーパージャイアンツは一般市民を巻き込んでしまったことに責任を感じ、颯爽と外へ飛び出すと、彼らの車を襲撃してアジトの場所を聞き出そうとした。ところがスーパージャイアンツに仲間が捕まったと知ったメラポリア国の連中は、証拠隠滅のために彼らを射殺。その罪をスーパージャイアンツに擦り付けた。警察に尋問され、牢屋に入れられるスーパージャイアンツ。しかもその頃、自分達の陰謀を知ってしまった子供達を監視するために、メラポリアからの使者が教会を占拠していた…。

カピア星人編(第3作、第4作)

スーパージャイアンツ 鋼鉄の巨人 怪星人の魔城  「評価 B」

スーパージャイアンツが原水爆を全廃させるために日本を去り、季節は秋に差し掛かろうとしていた。その頃日本では脳炎に似た謎の病気が多発しており、また全国各地から怪円盤の目撃情報が寄せられていたので、国民らは宇宙人が病気を蔓延させて地球を侵略に来たのではないかと危惧していた。その噂を完全なデマだと言い捨てる学者達だったが、実は彼らの中には既に怪星人の存在に気づいていながらも、民衆がパニックになるのを心配し、それを公表しなかった者がいたのである。ところがある晩、その学者は正体が明かされるのを恐れた怪星人によって襲撃され、身動きがとれなくなってしまう。これで不安要素も無くなった、と現場を去ろうとする怪星人。だがそんな怪星人の前に、地球の危機を予感して日本に舞い戻ってきたスーパージャイアンツが現れた…。

スーパージャイアンツ 鋼鉄の巨人 地球滅亡寸前  「評価 C」

カピア星人のアジトである魔城に突入し、捕らえられていた深見博士と子供達を救出したスーパージャイアンツ。カピア星人らは湖の底に逃げ込み、次なる作戦に出た。深見博士の息子になりすまし、対カピア星人用の秘密兵器を開発している工場の所在を探ろうというのだ。博士達はこの計画に気づくことができず、彼らに工場の場所を知られてしまう。早速円盤に乗り、工場を破壊しに赴くカピア星人達。ところがスーパージャイアンツが円盤に乗りこんできて、寸前のところで工場の破壊は阻止されたのである。この相次ぐ失敗に業を煮やしたカピア星人の高官達は、地球の引力を操って人類を大混乱に陥れるという最終手段に乗り出す…。

黒い衛星編(第5作、第6作)

スーパージャイアンツ 人工衛星と人類の破滅    「評価 D」

1957年。ロシアが人工衛星の開発に成功したこの年は、さぞかし当時の人間に宇宙時代の到来を予感させたことだろう。だが一方で、米ソの宇宙開発競争が冷戦の象徴の一つであるように、人工衛星は軍事利用されて人々の平和を脅かすのではないかと懸念された。その不安を作品に取り入れたのが、この「黒い衛星編」である。
人類がいよいよ宇宙への進出を始めた時代。山中博士は日本政府の要請の元、世界最高峰の技術を駆使した宇宙艇の開発に取り組んでいた。ところが研究所では度々トラブルが発生し、開発は思うように進展しない。そのことに気を揉んでいたある日のこと、博士の娘と息子が謎の連中によって誘拐されてしまった。続いて山中博士自身も誘拐され、彼らのアジトへと連行される。彼らの正体は「黒い衛星」と名乗る秘密結社で、ミサイルを搭載した人工衛星を宇宙に放つことで地球を手中に収めようとしていたのだ。子供達を人質にとられた山中博士は泣く泣く彼らに協力し、宇宙艇を完成させてしまった。これで野望達成の時が来た、と博士らを引き連れて宇宙艇に乗りこむ黒い衛星の面々。その頃、失踪した山中博士を独自に追っていたスーパージャイアンツだったが、既に宇宙艇は宇宙空間に向けて発進を開始していた…。

続スーパージャイアンツ 宇宙艇と人工衛星の激突  「評価 B」

ミサイルで撃墜され、大火星ゴードンへ姿を眩ませたスーパージャイアンツ。その間に宇宙艇は黒い衛星の本部である人工衛星に到着し、山中博士らはそこで新兵器の開発に従事させられた。だが博士が非協力的なため、兵器の開発はなかなか進展しない。地球では世界中の化学者が結集して黒い衛星への対策が練られており、このままでは宇宙から地球を征服するという彼らの野望も潰えてしまう。そこで黒い衛星の首脳陣は、自らの力を誇示するために次々とミサイルを発射。地球の主要都市を壊滅させていった…。

世界暗黒党編(第7作)

スーパー・ジャイアンツ 宇宙怪人出現          「評価 D」

怪しいカバンを携えた一人の男が、警官隊に捕らえられた。近くで銀行襲撃事件があったので、犯人と間違われたのである。調べにより誤認逮捕だと分かったので男を解放する警察だったが、男は警察に捕まった際にカバンを無くしてしまったのを異様に悔やんでいた。何でもあのカバンには宇宙怪人の細胞が入っており、こうしている間にも細胞は分裂を続け、いずれ怪人に成長してしまうのだそうだ。しかし警察は彼の話をまるで信じず、男は失意の中で警察署を後にした。その後男が街を歩いていると、突如「世界暗黒党」なる組織の人間が現れ、細胞を奪って組織の計画を暴露しようとした彼に襲いかかってきた。だが男が組織の連中に取り囲まれた時、突如登場したスーパージャイアンツが組織の連中を瞬く間に片付けてしまった。そしてスーパージャイアンツは、男を宇宙怪人の研究をしている桜井博士の家に連れて行く。彼の話から宇宙怪人のことを聞いたスーパージャイアンツは捜査に乗り出すが、既に全国各地では宇宙怪人の仕業と思われる怪事件が続発していた…。

悪魔と毒薬編(第8作)

続スーパージャイアンツ 悪魔の化身          「評価 C」

人間が突然ショック死するという奇怪な事件が、全国各地で続発した。世間はこれを新種の流行病の仕業と見るが、死んだ人間は皆、倒れる寸前に「悪魔が出た」という謎の言葉を残していた。これに新たな敵の匂いを感じたのか、再び地球に舞い戻り、立ち寄った養育施設を拠点として捜査を開始するスーパージャイアンツ。やがて畑中という男と知り合ったスーパージャイアンツは、彼が助手をしている博士が、娘の死体を使って怪しげな研究をしていることを聞く。この博士が事件と関係あるに違いないと睨んだスーパージャイアンツだが、一方の博士はスーパージャイアンツが日本に来たのを既に嗅ぎ付けており、毒薬の研究を邪魔されては困るとギャング団に彼の始末を命じていた…。

ビアス王国編(第9作)

続スーパージャイアンツ 毒蛾王国           「評価 B」

毒針を使った強盗団による宝石店襲撃事件が起こった。調査によって彼らの使っている毒がビアス王国に棲息する特殊な蛾の物だということが明らかになったので、早速毒蛾に詳しい菱井博士の元へと意見を求めに行く警官達。ところが彼は、表の顔こそ娘と一緒に病院を運営する優しい院長だが、病院の地下ではビアス王国革命団を指揮する悪の総統だったのである。警察は博士の演技にまんまと騙され、その事実を見抜く事が出来なかった。しかし近所の育児施設のフミオ少年は強盗団が博士と通じているのを偶然知り、病人のふりをして彼らのアジトに侵入する。そして博士に監禁されていた娘を助け出そうとするのだが、組織の人間に見つかってしまい彼らに取り囲まれる。だがその時、育児施設の子供から話を聞いたスーパージャイアンツがアジトに乱入。革命団を一網打尽にしていった…。


以上全九作によるシリーズなのだが、通して観ていると作品ごとの特色や、作品間のつながりによる疑問が見えてくる。そこでこれからは、それらの点について考察や比較をしていきたい。

「スーパージャイアンツはいつ世界の核を全廃させたのか?」
第8作のラストで、スーパージャイアンツは子供達に対し気になる台詞を吐いている。「これで私の地球における任務は全て終わった」と言っているのだ。元々スーパージャイアンツは地球の核兵器を全廃するために派遣されてきたのであり、様々な秘密結社と戦っている合間にも任務遂行のためにちゃんと活躍しているのは、第3作の冒頭における「スーパージャイアンツは核兵器を廃絶させるためアメリカと交渉中のはず」という子供の台詞から分かる。つまりスーパージャイアンツは、第8作ラストの時点では既に地球上の核兵器を全廃させてしまったのだ。ならば、果たしていつ核兵器を全廃させたのか? そこで鍵となるのが第6作である。この作品で悪の組織「黒い衛星」は地球の主要都市にミサイルを発射し、なんとニューヨークやモスクワ、東京を攻撃しているのだ。この攻撃によって各都市は壊滅的な打撃を受け、特に日本では国会議事堂が壊されたので以後シリーズに国会議事堂が姿を見せることはなかった(もっとも、今までのシリーズにも登場しなかったが)。こんなとんでもないことをしてしまう「黒い衛星」の行動力はシリーズ随一と言えるが、実はこれが核兵器全廃への足がかりになったのでは無いだろうか。スーパージャイアンツがいくら地球の危機を救ったとしても、両陣営がそう簡単に核兵器を手放すとは考えられない。だがミサイルによって両陣営のトップが潰されてしまえば、結束も緩み、核兵器を手放しやすくなるはずだ。ともすればバラバラになった両陣営が派遣争いのため、核兵器を用いて世界規模の戦争を起こしかねない状況だが、第7作を観る限りそのような描写は勿論無い。よって、スーパージャイアンツは各都市壊滅に乗じて地球上の核を全廃させたのではないか、と推測するのである。しかしこの場合、スーパージャイアンツは皮肉にも本来の任務遂行を敵組織に助けられた形になるのだが。

「協力・活躍する一般市民達」
スーパージャイアンツは決して孤独なヒーローではない。第1作で拳銃を捻り潰すという自称手品を見せて子供達を喜ばせたのを始めとして、彼は全作品を通して一般市民と積極的な交流を行ってきた。そして同時に、多くの市民がスーパージャイアンツと一緒に悪の組織と立ち向かい、彼の力となってくれた。その中でも特に印象的だったのが、第6作に登場した山中博士の娘と、第9作のフミオ少年である。
山中博士の娘は悪の組織「黒い衛星」のアジトである宇宙ステーションに家族ともども捕らえられていたが、策を練ってロケットを奪い、宇宙ステーションから脱出しようとした。ところが計画はあと一歩のところで頓挫し、彼女は組織の人間に銃を突き付けられてステーションの奥深くへと連行される。そして「黒い衛星」のトップと対面する娘。だがその時、娘は勇敢にも後ろの男から銃を奪い上げるとその場で銃を乱射。多くの人間を撃ち殺すと小さな部屋に入り、何十名もいる組織の連中を相手に篭城戦を開始したのである。その戦いぶりは勇ましいの一言で、スーパージャイアンツが助けに来たときには既に、部屋を取り巻く連中は彼女一人の手によって全滅していた。娘はその後も宇宙服を着ないで宇宙空間を移動したりと、凄まじいまでの活躍を見せる。間違い無くシリーズ最強のヒロインと言えるだろう。
一方のフミオ少年はと言うと、敵の首領を欺いてまんまとアジトに潜入してしまうという、その行動力が印象的な人物である。どちらもタイプこそ違うが、スーパージャイアンツの助けを借りずに悪に立ち向かったという点では共通しており、ヒーロー活劇映画の醍醐味を味わわせてくれる登場人物達だった。

「宇宙からの脅威」
地球上の核の全廃がスーパージャイアンツの任務だが、彼が戦う相手は地球の人間だけに留まらなかった。第8作の「悪魔」など、科学を越えた力を持った人外の類とも度々戦いを繰り広げていたのだ。その中でも第3作、第4作、第7作では宇宙人が登場し、その地球の常識を覆すような戦い方で地球の人類を恐怖に陥れた。
第3作、第4作に登場したカピア星人は造型の面では、膨れ上がった頭にゴーグルのような目、全身を纏う鱗やヒレと、初登場のシーンではなかなか古典的で良いデザインをしていた。だがその後、集団で登場する場面では何故かゴーグルが無くなっており、人間の顔が丸出しの相当情けないデザインになってしまった(何せマスクと人間の顔との境目がはっきりしていて、強烈に違和感を覚えるのである)。そんなカピア星人の特色は何と言っても、水棲星人のくせにジャンプ力が凄いという点を生かしたシュールな戦闘方法だろう。自らのジャンプ力を誇示するために無意味にバク宙を繰り返し、相手を翻弄する。特に第3作のクライマックス、カピア星人扮する舞踊団とスーパージャイアンツとの戦闘シーンでは、延々と続く打楽器の音をバックにしていることもあり、彼らの異様さも一塩である。また第4作ではカピア星人が看護婦に変装して深見博士の家に潜入するのだが、この顔が濃いとしか言いようの無いほどに物凄い化粧が施されており、子供が観たら泣くこと確実なものになっていた。
そして第7作では、「世界暗黒党」が発見した細胞が成長することにより宇宙怪人が誕生する。この宇宙怪人はスーパージャイアンツと同等の戦闘能力を持っており、しかも細胞分裂によって一瞬にして二人に分かれるという芸当まで見せてくれた。しかし何故かクライマックスの戦いには一人しか登場せず、分かれていったもう一人は何処に…と観客を戸惑わせた。

「ガラス玉の変遷」
本シリーズの重要なアイテムとして、「スーパージャイアンツを呼ぶガラス玉」というものがある。事件に巻き込まれてしまった子供に予めこのガラス玉を与え、ピンチになるとこのガラス玉を使うようにと子供に言っておく。そして実際に子供がピンチに陥り、ガラス玉を使うと、スーパージャイアンツはほぼ一瞬にして子供の前に姿を現してくれるのだ。敵を追い詰めている時なんかにガラス玉が使われるとスーパージャイアンツとしては溜まった物ではないと思うが、実はこのガラス玉、シリーズを追うごとにその性質、使用法などが微妙に異なってくる。
まずこの玉が登場したのが第3作。スーパージャイアンツの説明によると、ガラス玉を思いっきり壁か床に叩き付ければ良いのだという。実際、ガラス玉は地面に落ちても効果を発揮せず、子供がカピア星人の体に思いっきり投げつけたことによって、初めてスーパージャイアンツはガラス玉から発せられる電波を感じ取った。
それが第7作になると、ガラス玉の使用法が変わっていた。スーパージャイアンツの説明は基本的に一緒なのだが、意識して思いっきり叩きつけずとも、ただ床に落としただけでガラス玉はスーパージャイアンツを呼び出したのである。
更に第8作になると、ガラス玉を地面に置くと、それが勝手に転がっていってスーパージャイアンツの足元に向かうという、全く性質の違う物に変わってしまった。これでは時間がかかりすぎるとか空を飛んでいる時はどうするのかとか、色々と性能の面で不都合が想像されてならない。何故こんな変更をしたのか、甚だ疑問である…。

と、さまざまな観点から本シリーズについて見てみたが、結果としてシリーズ物としての一貫性の無さを浮き彫りにしてしまったようなところも見られる。だがこれは裏を返せば、如何に当時の製作者達が自由な発想で作品を作っていたかを表すものである。こんなところからも、この頃の新東宝の景気の良さを垣間見ることができるのだった。
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