番外編
日本で初めて人工孵化された、ペリカンのカッタ君。
自分を人間だと思い込んでいるこのペリカンは、
持ち前の愛嬌からすぐに子供達の人気者となりました。
そんなカッタ君が一人の少年との友情を通じて成長し、
戦場を荒らし回る巨大ペリカンになるまでを描いたのがこの映画です。
《story》
第一部:誕生、そして翔くんとの出会い
山口県宇部市の常盤公園。
観覧車やメリーゴーランドまであるこの公園の一角に、
ペリカンが集まって巣を作っている、その名も「ペリカン島」という所がありました。
嵐の夜、公園で動物の世話をしていた柴田さん夫妻はペリカン島に乗り込み、
川に流されそうになっていた卵を回収します。
卵は手厚い保護を受け、数日後には一羽のペリカンが生まれたのです。
ペリカンはカッタ君と名づけられ、
日本初の人工孵化によるペリカンということでマスコミの話題にもなりました。
カッタ君は公園に来る子供達に見守られながら、すくすくと成長します。
そんなある日、カッタ君は一人の少年と出会います。
彼の名は野村翔。
両親が仕事の都合でアラビアへ行き、祖母と二人で暮らしている孤独な少年です。
翔くんは毎日のようにカッタ君に会いに行き、
やがてカッタ君と強い絆で結ばれるようになりました。
二人の絆の強さを証明する、こんなエピソードがあります。
ある日翔くんが常盤公園から帰る途中、何か強い電波を感じました。
そこで翔くんが公園に戻ってみると、
カッタ君は野良猫に襲われて絶体絶命の危機に陥っていたのです。
翔くんはニュータイプでしょうか。
さて翔くんはカッタ君を助けようと、棒切れを手にして野良猫と戦います。
まだ幼稚園にも入っていないというのに、
見事な立ち回りを見せて野良猫を撃退する翔くん。
こうしてカッタ君は命を救われたのでした。
その後も翔くんは、カッタ君に大量の魚を与えたり、
一緒にメリーゴーランドに乗ったりと、楽しい日々を過ごします。
ですが2年後、翔くんはあまり姿を見せなくなります。
翔くんは幼稚園に通うようになり、公園に来れなくなったのです。
カッタ君は寂しさのあまり、街の上空を飛び回っていました。
するとカッタ君、翔くんの気を感じ取ったのか、
翔くんの通う幼稚園に着地しました。
幼稚園はあわやパニックになりかけますが、
翔くんの説得によって騒ぎは収まりました。
次の日から、カッタ君も幼稚園に通うようになりました。
翔くんの祖母にお揃いの黄色いカバンを作ってもらったカッタ君。
園児の歌に合わせて鳴き喚いたり、
運動会で翔くんと二人三脚をして一等賞になったりと、
これまた楽しい日々を過ごします。
ところが暫くして、翔くんの家族に深刻な危機が訪れたのです…。
◆
第二部:戦争、そして伝説へ
全ての始まりが、中東戦争の勃発でした。
翔くんの両親は戦火に巻き込まれ、実家との連絡も途絶えてしまいます。
心配になった翔くん、両親を助けようと一人でアラビアに行く決意を固めました。
早速空港に向かう翔くん。
ですが残念なことに、山口の空港からは外国行きの便がありません。
それ以前に飛行機に乗るお金すら無い気もしますが、
諦めきれない翔くんは港に向かいます。
そしてアラビア行きの船に乗せてと頼む翔くん。
しかし「子供は駄目だ」と断られてしまいます。
まだ幼稚園児なのですから当然でしょう。
空も駄目、海も駄目、ということで途方に暮れる翔くん。
そもそも幼稚園児一人でアラビアに行ったところで
両親の迷惑になるのが関の山に思えますが、
翔くんは最後の頼みとしてカッタ君のところへ行きます。
「ドラえも〜ん! ボクもアラビアに行きたいよぉ〜っ!」
と言わんばかりに泣きつき、アラビアに連れていってくれるようせがむ翔くん。
すると、どうしたことでしょう。
カッタ君は海に向かってけたたましく叫びました。
やがてその叫びに応えるかのごとく、
突如水平線の向こうから一条の光が差し込み、二人を照らします。
そして光が消えた時、公園から二人の姿は消えていたのです。
夜遅くになっても翔くんが帰ってこないので、祖母は心配して警察を呼びます。
ですが八方手を尽くしたにも関わらず、翔くんとカッタ君は見つかりません。
何か翔くんの身にあったのでは、と不安になる祖母。
さてその頃、翔くんはカッタ君に跨りアラビア上空にいました。
光が不思議な力を与えたのでしょうか、
カッタ君は急に人の言葉を喋れるようになり、翔くんと会話ができるのを喜びます。
ところがその喜びも、アラビアの様子を目にした途端消え失せてしまいました。
油田が燃やされ、流出した原油によって水鳥達はもがき苦しんでいます。
また街も廃墟となっており、飛び交う銃弾の中を人々が逃げ惑っていたのです。
カッタ君に低空飛行をしてもらい、彼らの中から両親の姿を探す翔くん。
広いアラビア砂漠の中から両親の姿を見つけるのは容易ではありません。
とその時、翔くんの目にある物が映りました。
「あ、日の丸だ!」
そう、日本国旗を提げたトラックが砂漠の中を横切っていたのです。
カッタ君が近づいてみると、トラックに乗っていたのは紛れも無く翔くんの両親でした。
上空から両親を呼び止め、二年ぶりの感動の再会を果たす翔くん。
何と呆気ない再会でしょう。
感動に浸っている翔くん達を余所に、
カッタ君は市街地で逃げ回っている人々を助けに行こうとします。
それを見た翔くんは「僕も行くよ!」と言います。
翔くん、当初の目的をすっかり忘れてます。
こうして翔くんは、両親と別行動をとることにしました。
カッタ君が人の言葉を喋っているのに気づかない、うっかり者の両親。
「後でキャンプで合流しよう」と言い、
死地に赴く翔くんをこれっぽっちも心配しませんでした。
カッタ君に跨り、アラビア上空を見渡す翔くん。
しかしその時、カッタ君が流れ弾に当たってしまいました。
翔くんもろとも海に墜落するカッタ君。
翼を負傷し、もう飛ぶことはできません。
するとそこへ、三羽のペリカンが飛んできました。
カッタ君同様に人の言葉を話すこのペリカン達は、
翔くんとカッタ君を自分達の住処である湿地帯に連れていきました。
頭に花を飾っている雌のペリカン、ペリーナの親切な治療により、
カッタ君の翼も次第に回復していきます。
そして何日かかったかは分かりませんが、怪我を完治させたカッタ君。
「市街地の人々を助けに行きましょう!」と、湿地帯のペリカン達に協力を呼びかけます。
ところが彼らの長老は、人間を憎んでいました。
元々ペリカン達は緑豊かな土地に住んでいたのに、
人間の環境破壊によって住む所を奪われたそうです。
その話を聞いて暗い気持ちになるカッタ君ですが、
「僕は人間に育てられました。僕にとって、人間はみんな友達なのです!」
と言い放ちます。
すると長老、カッタ君の熱意に心を動かされ、協力することを約束してくれたのです。
更に長老は、ペリカンの間に伝わるこんな話を聞かせてくれました。
満月の夜に祈りを捧げれば物凄い力を手に入れることができる、と。
そこで夜になって、カッタ君を始めとするペリカン達は満月に向かって鳴き続けました。
ペリカン達はやがて空に飛びだし、カッタ君も翔くんを乗せて離陸します。
とその時、奇跡は起こったのです。
空を舞っていた無数のペリカンが一箇所に集まっていき、
全長15mは悠にある巨大ペリカンへと姿を変えました。
翔くんを乗せ、巨大ペリカンは市街地に向かいます。
途中、交戦中の戦車を見つけた翔くん。
すると巨大ペリカン、
口から怪光線を吐き出し、
戦車を粉微塵にしたのです。
続いてミサイル基地を発見した翔くん。
巨大ペリカンは
またもや怪光線を吐き出し、
ミサイル基地を瞬く間に爆破しました。
「人間はみんな友達」と豪語していたカッタ君、
言ったそばから人間を大量虐殺しています。
言行不一致甚だしいです。
さて、そんなこんなで戦場を荒らし回った巨大ペリカンは、
背中に何十人もの避難民を乗せてアラビア中を飛び回りました。
そしてみんなを無事避難させると、
長老の一声によりペリカン達は分裂して元の姿に戻りました。
湿地帯に集まる、カッタ君とペリカン達。
いよいよ別れの時が訪れました。
カッタ君に恋していたペリーナは、目に涙を浮かべます。
長老は「どうだ、我々と一緒に暮らさないか?」と誘ってきましたが、
カッタ君は翔くんと日本に帰ると言って、丁重に断りました。
もしカッタ君が一緒に暮らすことを選んでいたら、
翔くんはどうなっていたでしょうか。
実は翔くん、カッタ君に命を握られています。
カッタ君は翔くんを乗せ、大空に飛び立ちました。
そして怪しい光に包まれ、アラビアから姿を消したのです。
遂に両親のいるキャンプへは立ち寄りませんでした。
これでは両親、別行動をとった翔くんの無事を確認することができません。
実家では祖母を放ったらかしにし、アラビアでは両親を放ったらかしにする。
つくづく罪な男です、翔くん。
さて翔くんとカッタ君は、公園で眠っていたところを柴田さんに発見されました。
柴田さんの呼びかけで目を覚ました翔くん。
柴田さんに、今までの冒険譚を話して聞かせます。
しかし当然ながら柴田さんは信じてくれず、
「カッタ君が巨大化して〜」とか話す翔くんに対し
真剣に引いていました。
ところで、翔くんとカッタ君が何日もアラビアにいたにも関わらず、
山口県では一晩しか経っていませんでした。
カッタ君も帰ってからは言葉を喋りませんし、果たして翔くんは夢を見ていたのでしょうか?
と思ったらしかし、中東情勢を知らせるニュースで
「巨大な鳥のようなものが人助けをしていたようです」と流れたじゃありませんか。
そう、全て現実の出来事なのです。
◆
第三部:成長、そして涙の別れ
月日は流れ、翔くんは小学生になりました。
両親も日本に帰ってきて、賑やかな日々を送ります。
戦地で別れたっきりの両親との再会が気になるところですが、
その場面が描かれることはありませんでした。
さて一方のカッタ君は、翔くんが来てくれない寂しさのあまり、
鏡の向こうにいる自分と会話したり、
団地の廃材を集めて巣を作ったりと、何やらアブない奴になっていました。
そんなカッタ君を見た柴田さんは、カッタ君が野生に帰ろうとしているのを悟ります。
翔くんと柴田さんのサポートを受けながら、ペリカン島で暮らし始めるカッタ君。
やがてペリーナそっくりのペリカンと仲良くなり、子供まで産まれました。
そこで翔くんは、産まれたペリカンにペリーナと名づけます。
カッタ君の元彼女の名前を子供に付ける男、野村翔。
ですがそんな中、翔くんとカッタ君に別れの日がやって来ます。
翔くんの両親が東京に転勤になり、
今度は家族全員で引っ越すことになったのです。
アラビアから死ぬ思いで帰ってきたと思ったら、今度は東京へ飛ばされる。
翔くんの父はなんと過酷な仕事をしているのでしょうか。
カッタ君と公園で二人きりになり、思い出に浸る翔くん。
野良猫と戦ったり、
運動会で二人三脚をしたり、
巨大ペリカンになって人間(=友達)を大量虐殺したり…。
別れの印に祖母の作った黄色いカバンを渡し、
翔くんは常盤公園を去りました。
翌日、翔くん一家は飛行機に乗っていました。
窓から常盤公園を見下ろす翔くん。
すると飛行機を追うように、カッタ君が空を飛んでいたのです。
このまま東京まで付いていきそうですが、
カッタ君は飛んでいく飛行機に向かって、
何時までも鳴いていたのでした。
完ごく普通の少年とペリカンの友情物語のはずが、
戦争を無理矢理絡めたことによりカルト化したこの映画。
いやはや驚くばかりです。