映画俳優コルトン・ウェスト。ヒーロー映画「レッド・ロケット」のヒットが20年前。今はすっかり落ち目となったもののプライドは失われておらず、アクション映画と思って撮影に臨んでいた映画がゴキブリの出るパニック映画と知るや否や撮影現場を抜け出してしまった。しかしカリフォルニア南部で車を走らせ家路を急ぐ途中、大地が激しく揺れて目の前のサンタモニカ山地が爆発した。ハイウェイに降り注ぐ火山弾。コルトンは直ちに車を抜け出して避難しようとしたところ、恐るべき光景を目の当たりにする。なんと火山弾から巨大な蜘蛛が出現し、人間を襲い始めたのだ。奴らこそがこの映画の看板ラバランチュラ。糸の代わりに溶岩を噴き出してローストした人間を捕食する、それはそれは恐ろしい蜘蛛だ。慌てて家に逃げ帰ったコルトンは妻オリビアにそのことを告げるが、火山活動の影響で情報網が遮断された状況下。「溶岩から出てきた蜘蛛」なんて荒唐無稽な話はもちろん信じてはくれなかった。それでもコルトンは息子ワイアットが外出中と知ると、彼を探して家を飛び出した。ロスアンゼルスは至る場所で道路が陥没し、ラバランチュラが這い出している。何度も車を乗り継ぎ息子を探しながら、至る所で人助けをするコルトン。彼はこの災害を通じて、現実世界でも英雄となっていく…。
蛍光ゾンビ映画「ザ・コンヴェント」で度肝を抜いたマイク・メンデス監督による複合パニック映画。竜巻+サメの「シャークネード」が当たったのだから俺たちは火山+蜘蛛でヒットを狙う!という企画意図は安直な感じだが、馬鹿馬鹿しさを極めた「シャークネード」とは別ベクトルでの傑作となるのだから大したもの。ラバランチュラは人間の体内に入れるミニサイズから人間大の通常サイズ、博物館の天井まで届きそうな大型サイズ、ビルをよじ登る怪獣サイズまで個性豊か。口の中から大量のミニサイズが湧き出す、通常サイズが吐き出す溶岩でババアの顔面を焼失させる、などそれぞれのサイズに応じた見せ場もえぐさ満点で嬉しい限りだ。人類も様々な方法で奴らに対抗するわけだが、中でも妻オリビアが屋内に侵入したラバランチュラと戦う場面は白眉。手裏剣を投げる、蹴り飛ばす、ショットガンをぶっ放すなどパワフルな活躍に惚れ惚れさせてくれた。またクライマックスの事態を収束させる方法には綿密な伏線が張られており、ただのギャグと思っていた要素が後半活きてくるのには作品全体の気の抜けた雰囲気も相俟って本気で大いに驚かされた。落ち目のヒーロー映画俳優が虚実の垣根を越えたヒーローとして返り咲く、何とも胸熱な快作だった。