インディアンプリンセス ポカホンタス          「評価 B」

17世紀、アメリカ大陸。欧州から多くの白人探検隊が訪れては開拓が行われていた。しかし彼らはネイティブ・アメリカンたちの土地を荒らすばかりか略奪や虐殺も行っており、ネイティブ・アメリカンたちは白人たちに敵愾心を燃やすようになった。そしてこの度、新たな白人探検隊がイギリスから海を渡ってやってきた。隊長のジョン・スミスはこれまでの白人たちとは違って善良な人物で、ネイティブ・アメリカンには危害を加えないように開拓を始めた。でもすぐ近くにあるポウハタン酋長の集落では大騒ぎ。これまでの白人たちの仕打ちもさることながら、最近狩りでとれる獲物も減りつつあったからだ。集落の若い衆は今すぐ武力で追い出そうと主張したが、慎重派のポウハタン酋長はしばらく様子を見ることを決めた。そして数か月後、いよいよ懼れていた事態に陥った。周辺の森から獲物がいなくなり、探検隊の砦で食糧難が発生したのだ。ジョン・スミス隊は祖国から持ってきた文明の利器をポウハタン酋長のもとに持っていき、食糧と交換してもらおうと砦を後にした。とその途中、彼らは水汲みをしていたネイティブ・アメリカンの少女と出会った。彼女こそがポウハタン酋長の娘、ポカホンタスだ。隊員たちが銃を突きつけたものの、ジョン・スミスは「こんな美しい台地で戦争を起こすなんてイギリスの恥だ」と制止した。程なくして「ポカホンタスが捕まった」と誤解した酋長たちが駆けつけた。だがそこで彼らが目にしたのは、ポカホンタスが探検隊と玉蹴り遊びをしている光景だった。善良でユーモアを解するジョン・スミスと好奇心旺盛なポカホンタスはすぐに打ち解けたのだ。その日の晩、ポウハタンの集落で食糧を分けてもらうための交渉が行われた。しかし酋長たちは「イギリス人が来なければ獲物はいなくならなかった」と難色を示し、交渉は翌日に持ち越されることに。そんな中、集落の若い衆たちは白人たちに不意打ちを仕掛けることを企んでいた。それをいち早く察したジョン・スミスたちは速やかに逃走を図ろうとしたが、隊員が思わず放った銃弾が1人の若者を負傷させてしまった。その後、勝手な行動をとった若い衆は集落から追放。ジョン・スミスは他の隊員たちを逃がすため自ら捕虜となり、集落の人間を傷つけた罪で火あぶりの刑にかけられることになった。それを知ったポカホンタスは深く悲しんだ。ジョン・スミスは悪くないのにこのままだと殺されてしまう。何とか助ける術は無いものか考えたところ、友人の助言を基に1つのアイディアが浮かんだ。部族の掟では、捕虜を家来にすることができ、家来を殺すことはできない。だからジョン・スミスを自分の家来にしてしまえばいいと。そこで直ちにジョン・スミスのもとに駆けつけ、彼を家来にすると宣言した。酋長たちは反対しようにも、掟を出されては黙るしかない。かくしてジョン・スミスはポカホンタスの家来となり、処刑を免れることができた。集落では少女に付き従う白人を嘲笑う者もいたが、剽軽な性格で文明の知識も有しているジョン・スミスが集落に受け容れられるのにそう時間はかからなかった。そんなある日、事件が起こった。酋長の古くからの友人が突然足を病み、立ち上がることができなくなったのだ。ネイティブ・アメリカンたちは回復を祈り続けるが効果はない。そこで現れたのがジョン・スミス。彼は整体術も心得ており、たちどころに足を治療し、歩けるようにしてしまった。ジョン・スミスは集落の恩人として大いに感謝された。一方その頃、探検隊の砦では食糧が尽きたのでイギリスに撤退する準備が進められていた。しかしそこへジョン・スミスが集落の人間を伴って帰ってきた。集落から分けてもらった食糧を持って。更に追放された若い衆も戻ってきた。新しい狩場を見つけて豊富な獲物を手に入れた彼らは、集落からの報せでジョン・スミスの行いを知り、砦に持ってきてくれたのだ。今ここに、ジョン・スミス隊とネイティブ・アメリカンとの間に固い信頼が結ばれた。ポカホンタスの勇気ある行いのおかげで、アメリカの地に平和がもたらされたのである…。

ディズニーの「ポカホンタス」がビデオリリースされる直前に格安ビデオ販売チェーン「ビデオ安売王」から発売された、ディズニーとは全く関係のないビデオ映画だ。前々から見たいと思ってたけれど大都市の中古ビデオ店でもなかなか見つからず、かといってネットオークションを使うほどでもなく半ば諦めかけていたところ、近所のブックオフのごくごく狭いVHSコーナーでディズニー版「ポカホンタス」と並んで108円で売っているのを発見。ヤフオクと提携して発掘の楽しさが激減したブックオフでこんなお宝に遭遇できるとは思ってもいなかったから衝撃もひとしおだった。
そんなわけで念願叶って入手できた本ビデオ。パッケージ裏には「アメリカで今、一番有名な愛のヒロイン“ポカホンタス”。よりかわいらしく、より親しみやすく、オリジナル・ビデオ・アニメ版でいち早く登場!」と便乗する意志を全く隠す気もない潔い文面が躍っており、危険な匂いをギンギンに感じさせてくれる。そしていよいよ再生。少年少女が自宅で童話を読んでいると本がジェットコースターに変形し、それに乗って不思議の国のアリスや白雪姫(当然ディズニーのそれとはデザインが微妙に変えてある)などの世界をめぐる──というオープニング映像が流れる。どうやらこの作品、「まんが世界昔ばなし」的シリーズの1篇のようだ。そして本編は上記のとおりだが、やはり劇場用映画として作られたものではないので映像面では世界最先端のディズニーとは比べることもおこがましいレベルだ。またミュージカルの代わりとして、本作では男性の野太い声で「ウオーポカホンタスー」といった歌が入る。ネイティブ・アメリカンらしい雰囲気を出したかった意図は分かるものの、少女が主人公の本編の雰囲気とはあまりにもミスマッチで戸惑うばかりだった。
しかしこの映画、出来自体は決して悪くない。ディズニー版はポカホンタスとジョン・スミスのラブストーリーとして大胆なアレンジが加えられ、ジョン・スミス救出をクライマックスに置いたために誤解が解ける過程が早急で乱暴な印象を受けた。対して本ビデオではジョン・スミス救出は中盤で済まされ、その後双方の陣営が打ち解けていくまでの過程が丁寧に描かれていた。ポカホンタスが史実通りの10歳くらいの少女でジョン・スミスを救出する意志に恋愛感情が存在しないから純粋な善意の尊さが強く感じられるし、作中の登場人物に明らかな悪者が存在せず誰も犠牲になることなく和解に至る流れも綺麗だった。白人探検隊が過去に行ってきた略奪・虐殺が台詞だけで済まされるのは少々物足りないものの、さすがに映像化すると児童向けアニメーションじゃなくなるおそれがあるので致し方なしか。こと脚本に関しては良作と呼べる出来だった。


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