医者志望の青年ドゥグラスは妻マリアを連れて、実家・シルヴァ家へと帰ってきた。妊娠したマリアの出産の準備のためだったが、密林の中で牧畜を営んでいるシルヴァ家の暮らしは、都会のそれとは大違い。何もかもが豪快で大雑把なシルヴァ家の生活ぶりに、マリアは無事出産できるか不安を覚えずにはいられなかった。しかも近頃は家畜や番犬が血を抜かれて変死する事件が相次ぎ、明らかに只事ではない雰囲気が漂っていた。
さてこの密林地帯には、シルヴァ家と同じく気性の荒いカルヴァーリョ家がいた。たびたび衝突していた両家は、あまりもの悲惨な争いに消耗して最近は休戦中だった。しかしドゥグラスが帰ってきた矢先、シルヴァ家の人間が変死した家畜の肉を食堂に卸し、それをカルヴァーリョ家の人間が食べたから大変だ。肉を食べた連中は大量の緑色のゲロを吐いて倒れ、肉の出所を知ったカルヴァーリョ家の連中はシルヴァ家に敵意を向けた。そんな中、シルヴァ家の父親が遺体となって発見される。シルヴァ家の連中はこれをカルヴァーリョ家の仕業と判断し、報復のためにカルヴァーリョ家に殴りこみにいった。だがドゥグラスがそんな彼らを尻目に父親の死体を調べたところ、体内から銃のパーツが発見される。実は父親、銃の手入れ中に暴発を起こして死んだだけだった。そうと知ったドゥグラスは、戦いを止めるため兄弟たちを追いかけた。ところが既に両家の殺し合いは始まっており、密林は血で血を洗う戦場と化していた。更に血の匂いに誘われて、家畜を襲っていた犯人・吸血怪物チュパカブラがシルヴァ家に出現。マリアたちに襲い掛ってきた…。
密林地帯で野蛮な2つの家族とチュパカブラが三つ巴の抗争を繰り広げる、ブラジル産モンスターパニック。本作のチュパカブラは頭頂部から背中にかけて無数の棘を生やした爬虫類人間という正統派な出で立ちで、造形も悪くない。鋭い爪と牙で獲物を襲い、喉袋でケロケロ鳴くという、カエルのような個性も持っていた。ところがこいつ、あまりにも影が薄かった。と言うのも本作、明らかにシルヴァ家とカルヴァーリョ家の争いの方に重きが置かれていたのだ。両家の争いが全編に渡って繰り広げられるのに対し、チュパカブラが出てくるのは上映時間が半分に差し掛かってから。しかも折角登場したところで、人間同士の戦いは様々な武器を駆使した残虐シチュエーションが満載なのに対し、爪と牙しか武器のないチュパカブラの襲撃はどうしても地味な印象が拭えない。そこに中盤以降はインパクト抜群な(そしてストーリー上の必然性がまるでない)呪術師まで乱入してくるとあっては、チュパカブラの恐怖感など完全に消え失せ、最早何の映画を見ているのか分からなくなる始末だ。素材は悪くないのに、色々と欲張りすぎたせいでセールスポイントが霞んでしまった作品だった。