モスキートマン             「評価 C」

原子力研究所で働くジムを、相次いで不幸が襲った。作業中に放射性物質を足に浴びてしまう。職場をクビになる。車をレッカーに連れて行かれる。妻を同僚に寝取られる。そして茫然自失になって街をふらついていたところデイヴという男に出会うのだが、こいつもまたとんでもない奴だった。彼は蚊を媒介とした新型ウイルスに対抗するワクチンの研究をしており、ジムに大量の酒を飲ませて気絶させると、自ら開発したワクチンの実験体にしたのだ。しかし実験は失敗し、ジムはウイルスの抗体ができずに命を落とした。彼の遺体はゴミ置き場に投げ捨てられ、ウイルス感染による死者として扱われる──はずだった。
ところがその時、ジムの肉体に恐るべき異変が発生した。放射性物質とワクチンの相乗作用によって遺伝子構造が書き換わり、全身の皮膚が爛れた醜悪な怪物“モスキートマン”として生まれ変わったのである。蚊のように身軽に動き回り、無数の蚊を使役し、ストローのような舌で相手の血液を吸い尽くす。そんな特殊能力を手に入れたジムは、己の恨みと吸血衝動を晴らすため、自分を陥れた連中を一人ずつ殺害していった。シャナハン刑事はそんな彼を凶悪なモンスターと見なして追跡するが、原子力研究所の元同僚であるエブリンは、強盗に襲われていたところを助けられた経験から、ジムの心に人間の優しさが残っていることに気づいていた。やがて警察の目を掻い潜り、ジムとエブリンは遺伝子の壁を乗り越えて結ばれる。しかしその頃、デイヴは報復されるのを恐れて、モスキートマンを抹殺する計画を打ち立てていた…。

蚊と人間のハイブリット生命体、モスキートマンが活躍するSFアクション。モスキートマンは蚊を操ることで様々な芸当を見せてくれるのだが、いかんせん決め手となる殺害方法がストローで相手の血を吸うだけなのがいただけなかった。冒頭で強盗を殺害するシーンと、妻を殺害するのをシルエットで見せるシーンが目を引くぐらいで、何度も同じ殺し方を見せられると単調に感じられてくる。クライマックスの対決もモスキートマンが無力すぎてろくに活躍できず、拍子抜けする結末を迎えて落胆させられた。
そして構成にも難がある。冒頭で強盗とモスキートマンの戦いを見せた後、時間を少し巻き戻してジムがモスキートマンになるまでの話に入るのだが、それが終わるともう一度ご丁寧に強盗との戦いをやるのはどうか。中盤は迫力のないカーチェイスでダラダラ時間を稼ぐし、どうにも評価しがたい。
しかしこの作品、あまり嫌いになれない。モスキートマンの「ブブブブブ」という蚊の羽音みたいなマヌケな鳴き声が象徴するように、最初から下らないヒーロー作品を目指して作っている節が見受けられるのだ。本来なら緊迫する場面でも、シャナハン刑事の相棒がマイペースな反応を見せたり、敵側の作戦が回りくどかったりと、意図的に調子を崩している箇所が散見される。これらの要素によって構築された山も谷もないダウナーな世界が、シリアスな本筋を完全に呑み込んでおり、不出来な部分にもさほど目くじらを立てずに鑑賞できたのである。


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