見知らぬ森で目を覚ました青年マイクは、自身の肉体の異変に気づく。全身傷だらけで肌の血色は悪く、おまけに至近距離から銃で撃たれても死なない。そう、彼はゾンビになっていたのだ。どこかの化学会社の事故によりゾンビが大量発生しており、辺りには逃げ惑う人々と、彼らを食い散らかすゾンビたちとで溢れかえっていた。だがマイクは他のゾンビと違い、人間としての理性が残っており、言葉を喋ることもできる、言わば「死にぞこない」の状態だった。彼は同じく「死にぞこない」となっていた窒息プレイ好きの変態ブレントと知り合うと、死ぬ間際に恋人エリーへ婚約指輪を渡そうとしていたことを思い出し、エリーの暮らすミシガン州のニューフェンウェイに向かうことにした。しかしその一方、化学会社は感染拡大を食い止めるべく、凄腕のゾンビハンターを雇ってゾンビどもの討伐に当たらせていた。ゾンビだろうが死にぞこないだろうが、ゾンビハンターにしてみれば一様に討伐の対象だ。執拗に襲撃をかけ、マイクたちの行く手を阻んできた…。
愛する人への未練を残して死んだ人間が幽霊となって現れる──という散々使い古された題材を、幽霊の部分を死にぞこないのゾンビに変えることで新たな息を吹き込んだ痛快スプラッターコメディ。マイクとブレントは、心は人間であり肉体はゾンビである。立ち寄ったバーでゾンビでないかと疑いをかけられたら、「自分たちはゾンビと違って人間を襲わない」と理性的に必死に弁明する。しかしバーにゾンビの大群が押し寄せると、ゾンビたちは彼らを同類と見なし、バーの外まで逃がしてくれる。こういった彼らの不安定なアイデンティティを突いたネタが随所に散りばめられ、笑いを誘っていた。
しかし珍道中の終点ニューフェンウェイに到着してからは、それまで笑いを生み出す要素だった彼らのアイデンティティが別の側面を覗かせる。旅立つときの会話では軽く流されていた「ゾンビとなった自分をエリーは受け容れてくれるだろうか」という問題がいよいよ現実のものとして浮上。マイクはエリーに己の状態を打ち明ける決心ができず、大いに苦しみ出すのだ。心は人間のままであり、肉体で相手に触れることもできる。しかしその肉体は紛れもなくゾンビだ。先述の「未練を残した幽霊」に、質量と醜悪さが加味されたことで、「相手が受け容れてくれれば一緒になることは可能だけれど、受け容れてくれるか疑わしい」という、完全に死んでいる幽霊とは違ったもどかしさを生み出していた。そんな巨大な障壁に、マイクがブレントの支えで立ち向かっていく様はまさに痛快。観ていて前向きな気持ちにさせてくれる、何とも素晴らしいゾンビ活劇だった。