ファイアーボール              「評価 D」

アメフト選手のタイラー・ドレイブンは、人気絶頂にありながら飲酒運転で少女を轢き逃げし、自宅軟禁中の身だった。ところが警察の目を掻い潜って外出したところを、TV局のレポーターのティモンズに見つかってしまう。しつこく付きまとわれ、鬱陶しく思ったタイラーはガソリンスタンドでティモンズをボコボコに。その現場を目撃していた店員に通報され、駆けつけた警官によってあえなく逮捕された。反省の様子が見られないということで、留置所に入れられるタイラー。その矢先、留置所は火災に見舞われる。タイラーは全身に大火傷を負って病院に運び込まれ、最早回復は絶望的かと思われた。しかし炎は、彼の肉体に突然変異を引き起こしていた。タイラーは火傷がみるみるうちに回復したばかりか、炎を自在に操れる特異体質になっていたのだ。早速病院を抜け出した彼は、通報したガソリンスタンドの店員を、ティモンズを、火の玉を放って次々と殺害。更に自分に賞賛を浴びせておきながら落ちぶれた途端に掌を返した社会に復讐するため、原子力発電所へと向かった。彼を追っていた連邦捜査官のクーパーは、火災調査員のエヴァと共に彼の凶行を阻止しようとする…。

「宇宙戦争ZERO」のクリストファー・タボリ監督による、ハゲオヤジ版ヒューマントーチが人々を恐怖に陥れるモンスターパニック映画。タイラーは火の玉を作り出して投げ飛ばす他、周辺の空気を高熱にして飛んでくる銃弾を溶かしたりできるのだが、たとえどんなに加熱しても服は絶対に燃えないのはお約束。しかし炎を操る能力という派手なイメージに反して映画は地味そのもので、どうも楽しむことができなかった。
何よりもの問題点は、タイラーのキャラクター性の弱さだ。人間を襲う動機として、母親を父親に殺された過去や、マスコミを始めとする社会への恨みが語られるのだが、そもそも最初に轢き逃げしたのは上記2点とは全く関係のない罪であり、いくら悲劇を盛ったところで自分勝手な暴れん坊にしか見えない。これで全てを破壊してやると言わんばかりの豪快さを見せ付けてくれたら、悪役としての傲慢さが魅力に感じられただろう。でもタイラーは市街地に出てきても標的以外をまるで襲わないし、社会全体に復讐しようとしても人里離れた原発を爆破しようという安易かつセコい手段に出てしまう。ワガママなくせに、目に付くものを片っ端から破壊することもできない小心者。人間臭くはあるけれど、映画の顔としてはあまりにもぱっとしない奴だった。


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