ミッション・トゥ・アビス             「評価 D」

冷戦時、米軍が隕石の組成物から開発した脅威の化合物“アイス10”。ひとたび周辺の磁場が乱れると物凄い勢いで化学反応を起こし、周辺一帯を粉塵に変えてしまう、極めてデンジャラスな化学兵器だ。しかし冷戦が終わって役目を終えると、アイス10はアラスカの地中深くに埋められ、永きにわたって封印されていた。そして現代、アイス10は再び掘り起こされた。埋められた場所で石油の採掘が行われるようになり、万が一地盤が崩れでもしたら大惨事になるので、もっと安全な場所に移動することになったのだ。アイス10を開発した元CIAの科学部長ロバートの提案により、マリアナ海溝の奥深くに沈められることが決定。巨大なスーパータンカー・ベリザー号が用意され、アイス10が積み込まれると、陸軍工兵隊のヘンリー大佐の指示のもとでマリアナ海溝に向けて出港した。ところがその矢先、ベリザー号は高波に遭遇。船体は大きく揺らぎ、アイス10は早くも不安定な状況に陥る。即座にタンクを解放して物質を一部放出することで難は逃れたが、上空に舞い上がったアイス10は黒い雲となり、付近を通りかかったクルーザーや航空機を無惨にも破壊していった。もし今後も同じような事態になり、そのたびに黒い雲を作っては一大事だ。そこで米軍は、数々の原発事故を未然に防いできた磁場制御のエキスパート、アダムたちに応援を依頼した。アダムはかつての任務で身近な人を死なせてしまったショックから未だ立ち直れずにいたものの、人類の危機ということで任務を引き受け、仲間たちと共にベリザー号に乗り込んだ…。

「エイリアン・ゼロ」「巨大毒蟲の館」「人喰い怪物ゴブリン」のジェフリー・ランドー監督による、この監督にしては珍しくモンスターの出てこないパニック映画。しかし特殊効果はチープ、演出力もなく、人間ドラマも希薄で、モンスターたちの一味違う個性ぐらいしか秀でた要素のない監督なのに、その数少ない見所のモンスターが出てこないのでは、何に期待すればよいというのか。そして案の定、相当に厳しい出来となっていた。
本作にはパニック映画としての山場として、アイス10による破壊シーンが数多く用意されている。だがそれら全ての場面における壊滅の瞬間の見せ方が、遠くからのワンショットで捉えるだけの演出で統一されていた。極めて単調な上、臨場感なんてものは微塵と感じられず、災害シーンが出てくるたびにテンションが下がっていくという見事な負の相関を作り出していた。特殊効果も例によって上出来とは言えず、とりわけベリザー号は「SUPER TANKER」なんて原題にするぐらいストーリー上でプッシュされているのに、航海する映像が貧相すぎてそれに見合う存在感が示せていないのはつらい限り。
そして脚本は、石油を掘るためだけに全世界を危険に晒すミッションを強行する米軍に戦慄させられる。主人公たちはあたかも世界を救ったような顔をしているが、そもそもアイス10を封印し続けていればクルーザーや航空機の乗客、そしてホノルルの一般市民たちは死なずに済んだわけであり、どれだけ幸せな結末を演出していてもドス黒い違和感がついて回った。しかもクライマックスでは、痺れを切らした無能な上層陣がベリザー号に核ミサイルを撃ってくるという、凡俗にも程がある展開が待ち受けていて一段とウンザリさせられる。
やっぱりジェフリー・ランドー作品はモンスターが出てこそだ。そう強く実感させてくれる作品だった。


TOP PAGE