ラバー             「評価 B」

アメリカ西部の砂漠地帯。居並ぶ映画の見物人たちに対し、保安官が告げる。「偉大な映画には必ず理由なき重大な要素が入っている。人生それ自体が理由のないことの連続だからだ。この映画は理由がないことへのオマージュである」と。そして見物人たちに双眼鏡を配ると、保安官は映画の世界における自分の仕事へと戻っていった。
ゴミが散乱する荒野。地面に横たわる古タイヤが、自我を得た。自分で起き上がり、転がって、何度も倒れながら前進する。タイヤはやがて、物を壊す喜びに目覚めた。ペットボトルを、サソリを、次々と踏み潰して破壊。しかし続いて空き瓶を壊そうとしたところ、いくら踏みつけても瓶は割れなかった。もどかしく思ったタイヤは静止し、何かを念じ始める。すると瞬く間に瓶は破裂した。タイヤにはテレパシーで対象を破裂させる超能力があったらしい。タイヤはこの能力を使って、缶を、ウサギを、カラスを破裂させる。更に前進を続け、舗装された道路にたどり着いた。そこでタイヤは、美女の乗る車に遭遇。美女に一目惚れし、テレパシーで車をストップさせた。だが車に向かって前進していたら、後方からオヤジの乗るトラックがやってきて跳ね飛ばされてしまう。美女の車には逃げられる始末。頭にきたタイヤはオヤジを追いかけ、テレパシーで彼の頭を爆破。それを発端として、タイヤは美女を追いかけながら各地で殺人を犯すようになった。
その頃、保安官はこんなナンセンス芝居を一刻も早く終わらせたかった。見物人たちに毒入り七面鳥を配るが、一人だけ食べない老人がいたので殲滅に失敗。一人でも見物人がいると映画を続行しなければならない。保安官は渋々と、同僚や美女と共にタイヤの退治作戦を決行した。美女のマネキンに爆弾を巻きつけ、無線で美女の声を流す。接近したタイヤが美女を爆破すると、その巻き添えでタイヤも粉みじんになるという算段だ。ところがタイヤを引き付けるために美女に下品な台詞を言わせようとしたら、美女がそれを拒絶。説得する保安官と嫌がる美女のやりとりが延々と続くものだから、見物人の老人は「冗長すぎる」とクレームをつける。しかもタイヤがマネキンの頭を破裂させても、爆弾は全く作動しないときた。あまりものグダグダな顛末に見物人が呆れ果てると、逆上した保安官は銃を持ってタイヤのもとへ歩み寄り、アッサリこれを射殺。これで映画は終わり、と美女たちと共に帰っていった。ところが、その場に残された見物人は驚くべき展開を目の当たりにする…。

殺人タイヤという馬鹿丸出しな設定&脚本を、作中の見物人たちに突っ込ませながら展開する、メタな構造のフランス産ホラーコメディ。命を得たタイヤが、夜に寝て朝に起きて、美女のケツを追い回し、プールに入って溺れ、ソファーに座ってテレビの自動車レース中継を観戦し──とひたすらに人間臭い姿を見せることでシュールな笑いを誘う。「スキャナーズ」みたいな超能力でウサギや人間をバンバン破裂させていく様子も、特殊メイクが凝っていて楽しめた。とは言え基本的に出オチであり、タイヤの生態を追うばかりでは次第に飽きてくる。だがそう思っていると映画の中盤、保安官もくだらない芝居に付き合わされるのに飽きてきて、見物人を殺して映画をさっさと打ち切らせようと暗躍するから大変だ。ここから映画は、タイヤvs人間の対立構造から、登場人物vs見物人、裏を返せば、映画製作者vs観客の構図に一変。映画を終わらせようとする人間と、その終わらせ方にケチをつける人間とのメタメタな争いに発展し、一段と混沌とした世界に嵌まりこんで行くのである。決して出来のいい映画とは言えないが、人を喰ったような展開に見事に打ちのめされた作品だ。


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