75年から放送された「ウイークエンダー」という番組がある。男女の愛憎が絡んだ様々な事件を泉ピン子たちリポーターがフリップボードで紹介し、その合間合間に事件の再現映像を流していく内容だ。言わばモンド映画をワイドショーの形式に落とし込んだ番組であり、俗悪との非難を受けながらも関心を集め、たちまち高視聴率番組となった。するとその人気に目をつけたのが東映だ。当時の東映は成年向けエログロ映画を毎年のように劇場公開しており、76年の新作として牧口雄二を監督に据え、「ウイークエンダー」の拡大版といった趣のセミドキュメンタリー作品を制作した。
オープンしたばかりの東映太秦映画村に設けられたスタジオから、本作は始まる。スタジオは「泉ピン子ショウ」と銘打たれ、泉ピン子が様々な猟奇犯罪をフリップで紹介していき、その合間に事件の再現フィルムが流れるという、「ウイークエンダー」を完全に模した流れで進行する。ただし取り上げる事件は、「ウイークエンダー」がニュース番組であまり扱われない三面記事メインなのに対し、本作は日本中を騒がせた大事件ばかり。そして本作において再現フィルムが流れる事件は、いずれも「男が女を殺す事件」で統一されていた。
最初に再現フィルムで紹介される事件は、「復讐するは我にあり」で有名な西口彰事件だ。福岡県で強盗殺人をした西本(西口彰のこと。再現フィルムでは全ての事件関係者に仮名が使われる)は、警察の目をかいくぐって全国各地を渡り歩き、巧みな話術と真珠入りのチンコで数多の女性を手篭めにしていた。浜松では大学教授のフリをして旅館に滞在し、例によって経営者母娘を篭絡。そして素性がばれそうになると母娘ともども絞殺し、次の土地へと移り住む。そんな風に各地で犯罪を繰り返していたものの、熊本に来た時に10歳の女の子に指名手配犯と同じ顔であることを見破られ、警察に通報されてあえなく御用となった。
お次に紹介されるのが、克美茂による愛人殺害事件。かつて一世を風靡した歌手の風見(克美しげるの仮名)は、なかなかヒット曲を出せずにいたものの、銀座のクラブで働くホステスを愛人にして甘い蜜月を過ごしていた。しかしそんな折、風見はレコード会社のパックアップで再デビューを図ることに。またとないチャンスに意気込む風見だったが、デビューの日が近づくにつれて愛人の存在が疎ましくなっていく。そしてある日、とうとう2人の仲は決裂し、喧嘩に発展。風見は愛人の頭を花瓶で殴って殺害。死体の処分方法に困った挙句、車のトランクに入れたまま空港の駐車場に置き去りにし、コンサート会場の北海道へ飛んでいった。だがすぐに死体は発見され、コンサートが終わった直後、風見は警察に逮捕された。
そしてトリをつとめるのが、大久保清連続殺人事件だ。刑務所帰りの連続強姦魔・久保(大久保清の仮名)の手口は、画家になりすまして女学生をナンパし、車で連れ回してレイプするというものだった。しかしレイプに成功しても、警察に通報されては具合が悪い。そこで久保は、女学生をレイプしたら殺害し、死体を山中に埋めるようにしていた。そしてある日、いつものように死体を埋めた久保は、女学生の自転車についた指紋を拭きとり、証拠隠滅を図ろうとした。けれども女学生を探していた家族に現場を押さえられ、直ちに御用。取調べで罪を白状させられると、山中から掘り起こされた死体たちの前に連れて行かれた。そこには遺族たちも居合わせており、口々に久保への罵声を放つ。彼らはやがて石を投げ出し、久保は全身に石を浴びて血まみれになってしまった…。
本作における3つの再現フィルムのうち、前半の2つは物足りない出来だ。いずれも泉ピン子のナレーションで語られる以上の人間描写がなく、ただ事件の表層をなぞるばかり。特にひどいのが克美しげる事件。そもそも映画公開のわずか1ヶ月前に発生した事件を組み込もうというのが無茶そのもの。再現フィルムはわずか数分の長さしかない上、風見こと克美しげるが体力トレーニングをする映像が延々と続いたりで、中身の方もあって無きがごとしだった。
しかし一方で、ラストの大久保清事件は秀逸だ。何よりも川谷拓三演じる久保の薄気味悪さがたまらない。断末魔の雄叫びをあげる女学生をにこやかに首絞めレイプする。警察の尋問に対し「僕は嘘の塊の人間だプププ」と無邪気にあざけ笑う。石をぶつけられれば「怖いよお、怖いよお」とうずくまる。どれをとっても圧倒的なインパクトがあり、これ1本だけで十分に元がとれたように感じられた。