徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑           「評価 A」

弱肉強食は人間の本性。弱き者に苛烈な責め苦を加える残虐行為はいつの時代にも繰り返されており、それは天下泰平の徳川幕府においても同じであった。そこで江戸時代を舞台にした本作では、奉行所によって凄惨な刑罰を課せられた2組の男女を紹介している。
寛永五年。長崎奉行所では高坂主膳の主導のもと、隠れキリシタンの弾圧が行われていた。そんな中、奉行所で働く若い役人・佐々木伊織は、毒蛇に噛まれたところを農民の娘・登世に助けられ、登世との仲を深めていく。ところが彼女の家は、隠れキリシタンだった。たちまち奉行所に捕えられ、登世とその家族は苛烈な拷問を受ける。しかも登世は主膳に気に入られ、強引に側女とさせられ、伊織の目の前で連日主膳に強姦された。やがて主膳は、伊織も拷問に加わるよう命じる。しかし伊織はその命令を頑なに拒否し続け、主膳の怒りを買う。彼は髷を切り落とされ、奉行所から追放されてしまった。それから1年後、流れ者となっていた伊織は、登世が駕籠で移動しているところに襲撃をかけ、彼女を救出。2人で人里はなれた山中に隠れ、互いに愛を貪りあった。だがすぐに奉行所の追っ手が駆けつけ、伊織は何本もの矢と槍で全身を貫かれ死亡。登世は姦通の罪で捕まり、当時最も残酷とされた牛裂きの刑にかけられた…。
文政四年。捨て子の捨蔵は、商人の息子であると騙って遊郭にやって来た。そこで自分と同じ河内出身の遊女・おさとと仲良くなった捨蔵は、彼女と一夜を共にした。ところが翌朝、彼が一文無しであることが発覚。店の連中は彼を袋叩きにし、半年間タダ働きさせることにした。捨蔵は逃げられないように髪を剃られ白塗りにされ、薪割り・掃除・洗濯などの下働きを命じられる。それでもおさとと仲良くしながら何とか仕事をこなしていたが、そんな時事件が起こった。1人の男が遊女を連れて脱走を図り、店の連中に捕まった。すると男と遊女は、残酷な拷問を加えられて秘密裏に殺されてしまったのだ。こんな店にいては、おさとの命が危ない。そこで捨蔵は、死体の遺棄を命じられたのをいいことに、棺おけにおさとを入れて脱走。無事店を抜け出した2人は、各地で置き引きや詐欺を繰り返しながら日銭を稼いでいた。しかしある日、いつものようにおさとが男を誘惑して美人局をしようとしたら、相手が岡っ引きだったから大変だ。2人は奉行所に連れて行かれ、様々な拷問を受けて諸々の罪を白状させられると、ノコギリ挽きの刑に処せられた…。

「女獄門帖 引き裂かれた尼僧」「毒婦お伝と首斬り浅」など、70年代半ばに数々のエログロ時代劇を世に残した牧口雄二監督による、直撃残虐ポルノ大作。職務と人情の間で苦悩する役人が主人公の重苦しい前半と、憎めない悪党たちの悲劇的な顛末を描いた後半部分。2つの大きく毛色が異なるエピソードを扱っているが、全編を通して壮絶な拷問描写が満載。それはそれは吐き気を催すほどにおぞましい内容だった。
まず開始数分にして、釜茹で、縛り首&胴体切断、火あぶりの三役揃い踏み。いきなりアクセル全開のテンションでぶっち切る。その後、隠れキリシタンたちに焼印を押しているシーンが出てきて、これだけでも十分惨たらしいのだが、主膳が「もう焼印は飽きた」と言い出して、更に強烈な拷問を課すように部下に命じるからたまらない。信楽焼きの狸の中にキリシタンを入れて炎で蒸し焼きにする「ファラリスの雄牛」の日本バージョンが出てきたり、水槽に閉じ込めて大量の毒ヘビを入れたり、足を木槌で何回も叩いてミンチにしたりと、インパクト抜群の拷問が次から次から出てきて、まだ映画は半分にすら達していないのにもうお腹一杯の気分にさせられる。そして前半のハイライトとなるのが、タイトルにもなっている牛裂きの刑だ。2頭の牛に左右の足を別方向に引っ張らせ、千切れた両足がとんで血肉が飛散する。腰から足の付け根にかけて布がかかっているので肝心の切断部分は見えないのだが、布の下から大量の内臓と血肉が流れ落ちてくる様はハッキリ写され、布の下の光景が容易に想像できるように取り計らいがされていた。
そして捨蔵のエピソードに突入。こちらもさぞや凄惨な拷問だらけなんだろう──と戦々恐々していたら、意外にも後半はコメディ調で、なかなか拷問シーンはやってこない。上客を奪った遊女に対する同僚たちの折檻があっても、全身に油を塗って犬たちに舐めさせる、というサービスシーンも同然なもので拍子抜け。あまりに拷問が無いものだから「もしかすると後半は拷問とは無縁の内容なのでは?」と思ってしまったが、そんな一縷の期待も、妊娠した遊女の中絶シーンで瞬く間に吹き飛んだ。ババアが遊女の膣に手を突っ込んでダイレクトに胎児を掴みだすという、果てしなくワイルドな中絶手術。膣から抜いたババアの手には胎児と思しき肉塊がはっきり握られており、こちらの精神は絶望のどん底に落とされた。更にその直後、沈む心に追い討ちをかけるように、逃げた遊女&男の拷問シーンに突入。初めは平凡な鞭打ちだったが、すぐに残虐度は急上昇し、削いだ耳を捨蔵に食わせたり、捨蔵に男のペニスを切断させたりと、狂気の沙汰に陥った。この拷問ショーが終わると、映画は再び拷問とは無縁の世界に回帰し、捨蔵とおさとの逃避行が描かれる。これが結構ほのぼのとして楽しいのだが、終盤で2人が捕まると、それまでの分を取り戻せと言わんばかりに残虐拷問のオンパレードときた。首分銅、乳首ペンチ、足指切断、水車、石畳と、次から次へとバリエーションに富んだ拷問が出てきて、まさに強烈。そして極めつけとして出てくるのが、ラストのノコギリ挽きだ。ノコギリを挽くのがイカれた酔っ払いなのもさることながら、挽かれる側も最初は従来のコメディ調で「痛い痛い」と言っていたのが、出血量が激しくなるにつれてそんな取り繕いが無くなって、声ともならない声をあげて絶命していく様が、恨めしいほどにじっくりと描写されていた。
前半では終始重苦しい雰囲気の中で拷問が行われ、後半は明るい雰囲気の中で不意に陰惨な拷問が行われる。いずれも拷問の凄烈さは変わらないが、エピソードごとに雰囲気をがらりと変えることで飽きさせない工夫がされていた。特に拷問が滅多にこないエピソードを後半に置き、拷問シーンが来るときのインパクトを最後まで維持させている計算高さは相当なもの。そして人体破壊のメイクもなかなかの生々しさで、物凄く嫌な気分を味わえた。


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