赤い珊瑚礁 オープン・ウォーター       「評価 B」

ルークたち5人の男女は、ボートに乗ってグレートバリアリーフまでクルージングに出かけた。美しい珊瑚礁の中で熱帯魚や海亀たちと戯れ、素晴らしいひと時を過ごす一同。しかし彼らがボートから離れていた間に、ボートは波に押されて暗礁に激突。船底に穴が開き、たちまち転覆してしまった。彼らは引っくり返ったボートの船底にあがって、辺りを見回す。どこを眺めても青い海。島もなければ船もない。到底救援は望めず、船が完全に沈むのも時間の問題。そこでルークたちは、近くの島まで泳いで向かうことにした。浮き板につかまり、島のある方向へと泳ぎ出す一行。ところがそんな彼らを、一匹のホオジロザメが狙っていた…。

あの「オープン・ウォーター」のワニ版、「ブラック・ウォーター」のアンドリュー・トラウキ監督による、やはり実話を基にしたサメ映画。舞台設定や襲ってくる生物で差別化されていた「ブラック・ウォーター」とは違い、本作のシチュエーションはモロに「オープン・ウォーター」そのもの。これでは単なる「オープン・ウォーター」の亜流になりはしないかと心配したが、実際に観てみるとそれは完全な杞憂だった。むしろ同じ状況になったことで、「ブラック・ウォーター」で垣間見えた監督の個性が一段と先鋭化し、「オープン・ウォーター」との方向性の違いが明確になっていた。
「オープン・ウォーター」の登場人物たちが直面するのは、救いの見えない極限状況。自分たちが助かるにはどうすればいいのか、一切の道が示されないものだから、絶望の中で理性が崩壊し、互いにいがみ合い、廃人同然に変わり果てる。たとえ救助ヘリが向かってきていても、登場人物たちがそれを知る術はない。対する本作や「ブラック・ウォーター」の登場人物たちは、助かるための方策はハッキリしている。だからどんな危険な事態に陥っても、決して人間性を失うことはなく、希望に向かって邁進し続けることができた。
となれば両者におけるサメやワニの役割にも、微妙な相違が窺える。どちらにおいても登場人物の命を奪う存在であることに変わりないが、「オープン・ウォーター」では登場人物たちが陥る五里霧中の絶望にケリをつけてくれる存在でもあることから、ある種の救済的側面を見出すことができる。一方で本作や「ブラック・ウォーター」では、救済を目指す登場人物たちの前に立ちはだかり、ひたすらに希望の芽を摘み取っていく、徹底して非道な存在だ。
「オープン・ウォーター」と、本作や「ブラック・ウォーター」。いずれも恐怖を覚える作品ではあるが、その恐怖の質は大いに異なっていた。単に亜流の一言で片付けるにはあまりにも惜しい、「オープン・ウォーター」に決して引けを取らない魅力を感じさせてくれる作品だ。


鮫映画一覧へ
TOP PAGE