天体学者のゲインズ博士は、サポートロボットのジンボットと共に、地球に落下した小さな隕石を回収した。研究所で調べたところ、隕石の中には270億年前の「最古の原子」で構成された、金属生命体が眠っていることが判明。ゲインズは生命体を甦らせ、ファースト・コンタクトをとることに成功。この大発見を同僚のマーゴと共に喜び合った。だがその時、顔のない黒服の一団が研究所を襲撃してきた。地球侵略を目論む宇宙人グレムロ・フラッグと、その分身のフラッグマンたちだ。奴らは最古の原子が秘める莫大なエネルギーに着目しており、隕石を奪い、マーゴを連れ去ると、研究所を爆破。ゲインズは全身に火傷を負い、命を落とした。だがそこに、密かに隕石から脱出していた金属生命体が現れ、ゲインズと合体。今ここに、金属と有機体が融合したニューヒーロー、アトム・ナインが誕生した。アトム・ナインはマーゴを救い出すべく、ジンボットと共にグレムロ・フラッグの宇宙船へ突入。だがグレムロの罠にかかり、最古の原子を構成する遺伝子を奪い取られてしまった。グレムロは原子のエネルギーを使い、超巨大なプラズマ砲「最後の審判マシーン」を発動。プラズマ光線を月に照射し、地球に引き寄せ始めた。このままでは月と地球が激突してしまう。たちまち世界中がパニックに陥る中、グレムロは各国の電波をジャックし、「私の支配下にならないと地球は滅びることになる」と、全人類を脅迫した。しかしその直後、最後の審判マシーンが崩壊を始めた。最古の原子が秘めたエネルギーが大きすぎて、オーバーロードを起こしたのだ。こうなってはもう、月を止めることはできない。グレムロは地球をあきらめ、小型宇宙船でそそくさと逃げ去っていった。アトム・ナインはマーゴを連れて宇宙船を脱出すると、地球を救うために月へ飛んでいった…。
死んだ人間が宇宙生命体と合体してニューヒーローに生まれ変わる、「ウルトラマン」みたいなコンセプトのSFヒーロー活劇。クリストファー・ファーリーなる人物が、監督から特殊効果から主演まで1人でこなした自主映画同然の代物だ。逃げる群衆、世界各地の災害といった映像は、全て在り物のフィルムの流用。舞台は山や砂漠といった人里離れた場所に限定され、特殊効果はチープそのもの。こんな安さ爆発の映画でもストーリーに魅力があればそれなりに楽しめるのだが、困ったことに本作はその肝心な脚本が駄目駄目だった。アトム・ナイン誕生までの過程は比較的丁寧に描写されるのだが、その後の展開は超高速もいいところ。覚醒したら世界がピンチに陥っていて、猛スピードで敵本拠地に乗り込んで、呆気なく捕まって、月が落ちてきて、侵略者が逃げ出して、月を止める。この一連の流れがろくな息継ぎもなしに展開し、最早楽しむどころでは無くなっていた。特にヒーロー活劇でありながら、戦闘シーンが皆無なのは厳しい。せっかく戦闘員ポジションのフラッグマンが大勢いるのに、こいつらと戦って主人公の能力を披露しないのは勿体無いだろう。更にシリーズ化を想定しているため、グレムロとの決着もつかずに終わり、大いに消化不良を抱えた状態で作品は終わってしまう。痛快さを著しく欠いた、何とも評価しがたいヒーロー映画だ。