カナダのトロント在住、スコット・ピルグリム23歳。ロックバンド、セックス・ボムオムのベース担当。女に振られて傷心中──だったが、近頃は女子高生ナイブスと付き合いはじめ、薔薇色の毎日。そんな彼はある時、白昼夢にてクールな美女と邂逅する。単なる夢と思いきや、後日、町の図書館で彼女の姿を目撃。これは偶然、いや運命に違いない。スコットは既にナイブスがいるにもかかわらず、すっかりその女性、ラモーナ・フラワーズの虜になった。彼女がアマゾンの配達員だと知ると、即座に商品を注文。ラモーナが届けに来たところで、デートに誘う。以後、2人は急速に仲を深め、金色の輝きを放つ毎日を過ごした。一方、セックス・ボムオムはバンドバトルに参加する。勝ち抜いたら、スターダムにのし上がるのも夢ではない。その初戦の会場に、スコットはラモーナを招待した。当日、相手側の演奏が終わり、セックス・ボムオムの番。だが演奏を始めた時、突如インド人が天井を突き破り襲来。彼こそはラモーナと付き合っていた、元カレ第1号だ。彼は今なおラモーナに未練タラタラで、邪悪なパワーを操り、今カレのスコットに戦いを挑んできた。スコットは演奏を中断して挑戦に応じ、激闘の果てにインド人をノックアウト。しかし邪悪なパワーを持つ元カレは、彼だけではなかった。残る6人の最凶元カレ軍団が、スコットの命を虎視眈々と狙っていたのだ。負けるな、スコット・ピルグリム! 元カレ軍団を叩きのめし、ラモーナの愛を掴みとれ!
冴えないけれどモテまくりの青年が、クールで謎めいたヒロインとの愛を貫くため、トンデモ能力者たちと死闘を繰り広げる。「ショーン・オブ・ザ・デッド」のエドガー・ライト監督による、ジェットコースターラブコメディ。あまりにも突拍子もない世界観&筋書きだが、これがスタイリッシュな演出と、疾走感溢れるストーリー運びで、まるで失速することなくラストまで一気呵成に突っ走るものだから、見ていて面白くてしょうがなかった。
原作となるブライアン・リー・オマリーのコミックスは、日本のゲームやアニメへのリスペクトが満載の内容だ。本作はそれを映画化したので、昔のテレビドラマ版「バットマン」みたいに擬音の文字や効果線が画面上に出てきたり、テロップが作品世界の一部として溶け込んでいたり、戦闘開始時に格闘ゲームのような演出がされたり、倒した相手がコインになってスコア表示がされたり…と、全編にわたって漫画・アニメ・ゲーム的な演出で彩られている。だがこれらが単なる外見上の演出に留まらず、表現の幅を広げるものとして見事に活用されているから恐ろしい。例えば擬音の文字。音源が画面に写らない状態で音が流れると、それがただの効果音なのか、作中の誰かが音を鳴らしているのか、判別するのは難しい。しかしベース音と同時に闇の奥から「DDDDDDD」と擬音が飛び出すことで、それが作中の人物のベース音だということが明確に分かるようになっていた。
また、原作がそんな内容なので、本作の登場人物たちは日本のアニメがごとく記号化されており、一旦確立したキャラから決してぶれることがない。「ああ、こいつはこんな奴なんだな」と、登場人物たちの性質・考えを物凄く容易に読み取ることができ、おかげでどんなに展開がハイテンポでも振り落とされずに楽しむことができた。
ともすればアバンギャルドすぎて誰もついて来れないような内容になるところを、絶妙な匙加減でしっかり見せきってしまう。その製作者の手腕に、ひたすらに驚かされる作品だった。