顔のない悪魔 「評価 B」
カナダのマニトバ州にある空軍基地の周辺で、住民が相次いで怪死した。彼らは一様に脳と脊髄を抜き取られており、事態を憂慮した軍部はカミングス少佐に調査を命じた。ところが飛行機の騒音、そしてレーダーに使っている原子炉のおかげで、周辺住民は日ごろから空軍基地に反感を抱いており、捜査は難航。それどころか、原子炉からの放射線で死んでいると誤解され、住民から殴られてしまう始末だった。そうこうしている内にも犠牲者は増え続け、基地と住民との対立は深刻化していく。そんな中でカミングスは、町外れに研究所を構えるウォルゲート教授のことを知り、彼と事件の関わりを疑った。と言うのも教授はテレパシーの実現を研究しており、この不可解な事件も彼の研究の影響ではないかと推測したのだ。更に犠牲者の墓地で教授のパイプを見つけ、一段と疑いを強めたカミングスは、町の代表たちと共にウォルゲートの研究所を訪れ、彼に問いただしてみた。すると彼の口から語られたのは、恐るべき事実だった。長年の研究の結果、思考を肉体から切り離して物理化することでテレパシーは可能になる、と結論付けた教授は、思考を肉体から切り離す装置を開発した。装置は基地の原子炉から漏れる放射線をエネルギーに変換し、教授の思考の一部を、新たな個体として切り離すことに成功する。ところが誕生するや否や、切り離された思考は自我に目覚め、研究所から脱走。奴は人間の知性、すなわち脳と脊髄を食らっては、数を増やすようになったのだ。それを知って戦慄するカミングスたちだが、その頃基地の原子炉制御室には、切り離された思考が群れをなして潜入。職員を襲い、原子炉の状態を臨界まで引き上げた。たちまち周辺の放射線量は上昇し、エネルギーを得た切り離された思考たちは活性化し、町の住民たちを血祭りにあげていった。カミングスは事態を収拾するため、基地の原子炉を止めようとするが…。
人間の思考が具現化した「禁断の惑星」チックな怪物が町を恐怖に陥れる、「黒死館の恐怖」のアーサー・クラブトゥリー監督によるモンスターパニック。本作の怪物は、前半の時点では「禁断の惑星」よろしく人間の目には見えず、住民を次々を手にかけていく。だが原子炉が臨界に達したとき、強烈なエネルギーを得た怪物は、そのあまりにもグロテスクな容貌を露にした。それはもう、「禁断の惑星」のイドの怪物が確実に暴れ狂うほどに。怪物は人間の脳と脊髄に触覚が生えただけのデザインで、ストップモーションアニメで脊髄を尺取虫のように動かし、地面や木々を這い回る。奴らが森にわんさか集う光景は、グロモンスターに溢れた現代の眼で見ても悪夢的であること限りなし。更に倒され方も凄惨で、本体が脳味噌なものだから、銃で撃たれては脳漿が飛散し、斧を振り下ろされては豆腐のように潰れていく。それをキッチリ映像化しちゃうものだから、公開時に各国で規制がされたのも頷けてしまった。
また本作、ストーリーの方も基地と周辺住民との対立を軸に据えており、見応えがあった。ただ、オチがひどい。以下ネタバレとなるが、研究所で怪物の大群に襲われたカミングスは、基地に行って原子炉を止めることを決意する。そこまではまだよかった。ところが止める手段というのが、「ダイナマイトで原子炉を爆破する」というびっくり仰天なモノ。そんなことしたら大量の放射性物質がばらまかれて、怪物なんか問題にならないぐらいの被害が出てしまうぞ。でも彼が原子炉を爆破したら、ちゃんと放射線は除去され、怪物どもは泡となって消失してハッピーエンド。所詮はスリーマイル島以前の作品ということでした。
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