ドリラー・キラー          「評価 B」
猟奇事件が続発するマンハッタン。彼らはなぜ犯罪を犯すのか。生活のためか、それとも──。マンハッタンの売れない画家リノ・ミラーは、鬱屈した日々を過ごしていた。世間からは自分の絵を認めてもらえず、乏しい収入の中で懸命にやりくりしている。なのに同棲している売春婦たちは平気で長距離電話を繰り返すので、家賃や光熱費の滞納を余儀なくされていたのだ。そんな彼は、自分の人生を注ぎ込んだ大作を描いて一発逆転しようと、巨大なバッファローの絵を描き始めた。しかし描いている途中、近所のスタジオにロックバンドのルースターズがやってきて、防音設備が行き届いていないにもかかわらず、深夜遅くまでライブやレコーディングをするようになった。彼らの騒音に精神を掻き乱されたリノは、大家に注意してもらうように嘆願するが、大家は家賃を払わない人間の訴えなど知らん顔。絵を描きたいのに、描かせてもらえない。リノのストレスは瞬く間に膨れ上がり、頂点に達したとき、彼はドリルを持った殺人鬼“ドリラー・キラー”に変貌。電気ドリルと小型バッテリーを抱え、深夜のマンハッタンにたむろする人々を惨殺していった…。
閉塞した社会に潰されそうになった男が爆発する、「フューネラル」「ブラックアウト」などのアベル・フェラーラ監督の原点と言える内容のスプラッター。ドリルで人間の額を穿孔していく残忍な殺害手口が有名な作品だが、全体的にダークで重苦しい雰囲気で統一された本作において、そんな猟奇的な殺害シーンが唯一の救いになっているように感じられた。八方塞がりのリノが、周囲を遮る壁を打ち破るための象徴として、ドリルが使われていたのだ。だからドリルで殺害する際は、大抵の場面において、壁の貫通とセットで描写される。こんな凶器へのこだわりに、アベル・フェラーラ監督の美学が垣間見えた。サイケでロックな空気が蔓延するマンハッタンの描写も見応えがあるし、いわゆる殺人鬼ホラーとは趣を異にする内容ではあるが、十分な魅力が感じられる作品だった。
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