2022              「評価 D」
2004年に東南アジアを襲った津波は、多くの死傷者を出した。それから17年後、東南アジアの海底火山は再び活発化し、タイを始めとした各国で地震が頻発していた。地震学者のシアム博士はこれを津波が来る兆候と見なし、タイのトライポップ首相に地震が来たらすぐに住民を避難させるように通達した。トライポップはその言葉に従い、地震が起きるとすぐに津波警報を発令した。だが地震が3度発生しても津波はやってこず、政敵のソムチャットから「インチキ学者の言説を鵜呑みにして民衆を混乱させている」と厳しく非難されてしまった。更にソムチャットはこれに乗じて首相の座を奪い取ろうと企み、有力な政治家たちを集めてトライポップを追放するために団結しようと呼びかけた。しかしその時、世界19箇所で同時に大地震が発生。津波が押し寄せ、バンコクの町を飲み込んだ。トライポップ首相は自ら軍用ヘリに乗り込み、水没しつつあるスクールバスから子どもたちを救助する。ところが子どもたちを全員救助したら、ヘリは定員オーバーとなってしまう。そこでトライポップは1人でバスに残り、子どもたちを乗せたヘリを見送ることにした。やがてバスは水没し、トライポップも海の藻屑に……なると思ったら、その時奇跡は起こった。海岸に建造されていた仏像が、台座を離れて浮上。その掌に乗ることで、彼は奇跡的に一命をとりとめたのだ…。
いかにも仏教国らしいオチに後光を感じてしまう、タイ産の津波映画。本作では津波を「環境を破壊してきた人類への自然の報復」として捉えており、本編終了後の監督自身からのメッセージにおいてもそれが明言されている。しかし環境破壊と作中の災害の合理的な因果関係は、本編中で何一つ語られない。本作では環境破壊の代表例として、地上げ屋による美しい島の開発が出てくるが、それが海底火山の活性化に結びつくような説明は皆無だった。あくまで「悪いことをしたら天罰が下るぞ」といったレベルでストーリーは展開しており、「タイではこれで環境破壊に警鐘を鳴らしたことになるのか」と、信心深くない身としては大きなカルチャーショックを受けてしまった。
ただそんなお国柄を抜きにしても、本作はあまり評価できたものではなかった。何よりひどいのが、登場人物たちの頭の悪さだ。リゾート開発に反対する人間を後先考えずに殺しまくる地上げ屋たち。地震直後なのに「津波なんか来るはずない」と高をくくり、わざわざ陸地からクルーザーに乗り込んで津波に呑まれてしまう議員。「民を守るのが自分の使命だ」と、指揮系統を完全無視して軍用ヘリに乗って救助活動を始めてしまう首相。見事なまでに愚か者揃いで、鑑賞中は溜息をつくばかりだった。
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