恐怖の精神病院 「評価 B」
18世紀。当時の精神病院の惨状は目に余るものだった。看守は患者を人格ある者と見なしておらず、暴言や体罰は当たり前。藁を敷いた大部屋に大勢の患者を押し込め、満足な食事や治療も施さず、まるで家畜のごとき扱いだ。本作の舞台であるベツレヘム・セント・メリー精神病院も例外ではなく、所長のシムズは患者をいたぶるばかりか、自分が脚本を書いた劇に患者を無理矢理出演させては、貴族たちの笑い者にしていた。だが精神病院の運営支援をしているモーティア卿の妻・ネルは、患者たちを見世物にしているシムズに対し、激しい不快感を覚えた。彼女は偶然知り合ったクエーカー教徒のウィリアムの助言から、夫に精神病院の設備を改善するように勧めてみた。初めは慈善事業として設備改善に乗り気だったモーティア卿だが、シムズに莫大な金が掛かると言われた途端、尻込みし、話をなかったことにしてしまった。ネルはそんな夫の情けなさに呆れ、激昂して家を飛び出した。一方でシムズは、自分の病院のやり方に口を出そうとしたネルを危険視した。彼は「ネルの行動は異常だ」とモーティア卿を丸め込むと、ネルを精神病の審問会にかけ、自分の病院に収容させてしまったのである。患者たちと同じ部屋に閉じ込められ、初めは嘆くばかりだったネル。しかし様子を見にきたウィリアムたちと話すうちに、「ここを改善する」という自らの使命を思い出し、同室の患者たちを献身的に看護するようになった。その結果、患者たちの信頼を得るネルだったが、それをシムズが黙って見ているはずがなかった…。
「脱走特急」「大地震」のマーク・ロブソン監督による、18世紀の実話を基にしたサスペンス映画。精神病院を舞台にした映画は「カッコーの巣の上で」や「ショック集団」など数多いが、本作のように「患者を人間扱いしないのが当たり前」という価値観だった時代を舞台にした作品はあまり存在しない。貴族たちは患者を心から侮蔑しているし、病院の看守たちは言わずもがな。主人公のネルですら、「彼らは獣も同然」とウィリアムに吐露する場面が存在するのだ。患者たちに同情する一方でそんなことを喋るネルの姿は偽善的に見えなくもないが、当時はまだ精神病に対して理解が進んでいない時代だったから仕方ないとも言えるだろう。
ただ本作の筋書きは、上流階級が精神病患者を笑い飛ばすところといい、患者たちの尊厳を話の主軸に据えているところといい、クライマックスの逆襲劇といい、どうも「フリークス」の亜流といった印象を受けてしまった。ネルやウィリアムのような理解者を配することで、「フリークス」よりは相当救いのあるラストになっているのだが。
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