セックスドキュメント 性倒錯の世界       「評価 A」
1971年。日本列島では社会の画一化が進行していた。核家族が団地に住まい、家主たちは満員電車で会社通い。みんな等しく淀んだ顔。この憂鬱から逃れるため、休日の大衆はレジャーやギャンブルに精を出す。一方で個性的な生き方を追求することで、この閉塞感を打破する人間もいた。世に言う性倒錯者たちである。
「にっぽん'69 セックス猟奇地帯」「驚異のドキュメント 日本浴場物語」に引き続き、中島貞夫が世に送り出したセックスドキュメンタリー第三弾。「にっぽん'69 セックス猟奇地帯」の性倒錯者を紹介したパートをより深く掘り下げたような内容で、おおまかに分けて同性愛編とSM編の二部構成になっている。
前半の同性愛編は、実際に社会に溶け込んでいる性倒錯者たちへのインタビューが中心で、合間合間に流れる破廉恥行為や手術の映像が強烈極まりない。とりわけ凄まじかったのがゲイの社交パーティー。初めは陽気にダンスを踊るだけだったのが、いつの間にやら全員裸になり、ペアを作って口付けを交わしたり、ベッドで快楽を貪り合うようになる。明らかに仕込みの入った映像だが、そのインパクトたるや本シリーズの中でも群を抜いたものだった。他にもニューハーフの豊胸手術という「にっぽん'69 セックス猟奇地帯」の豊胸手術よりも数段衝撃的な映像も拝め、前半だけでも大いに満足することができた。しかし同性愛編の締めくくりとしてレズビアンの性交シーンが流れるが、これが倒錯性に薄いくせにカップル2組の絡みをダラダラ10分近くも流しており、せっかくハイになったテンションが大いに沈んでしまった。ピンク映画として上映する都合上、ノーマルな人間でも楽しめるエロシーンを多目に入れたのかもしれない。でもさすがに10分はやりすぎだろう。
そして後半のSM編が始まる。こちらも刺青に縄にSMプレイと、なかなかにインパクトのあるシーン揃いだが、それよりも凄かったのがインタビュー映像。団鬼六に辻村隆に渡辺淳一と、倒錯性愛業界の第一人者たちに各々のサドマゾ論を語らせているのだ。これが実に聞き応えがあり、同性愛編に勝るとも劣らない充実感をもたらしてくれた。
本作を全体的に見ると、「にっぽん'69 セックス猟奇地帯」よりもテーマを絞ったことで、「驚異のドキュメント 日本浴場物語」のような中途半端なストーリーを設けずとも、ドキュメント映画としてちゃんと統一感のある内容になっていた。相変わらずインタビューの音声が聞き取りづらかったり、時間を割く必然性があったのかと首を傾げたくなるシーンがあったりと、不出来な箇所は結構ある。それでも中島監督が3年がかりで取り組んできた「和製モンド」は、本作で一つの完成を見たと言えるだろう。
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