驚異のドキュメント 日本浴場物語 「評価 C」
1970年、昭和元禄。日本列島はどっぷりとぬるま湯に浸りきっていた。大阪で開かれた万国博覧会に日本国民はなんとなく来場。ゴルフにパチンコにボウリングに競輪と、娯楽はますます多様化の一途を辿った。そんな中でとりわけ目を引く娯楽に、入浴があった。今や温泉旅館は総合レジャー施設化が当たり前。三重県の長島温泉では、プールにゴーカートに射的と、様々な娯楽施設を併設し、人々を歓楽に導いていた。ところがその温泉の大浴場の片隅に、温泉に潜って浴槽を調べている怪しげな男がいた。彼の名は野々村一平。理想の温泉を作るために日本を渡り歩く、本作の案内人である。
野々村一平は温泉にとりつかれていた。そもそも彼が産まれた時は難産で、帝王切開でようやく誕生することができた。しかし母親は手術に耐えられず、一平を産んだ直後に死亡。そのため彼の産湯と母の湯棺には同じ湯が使われ、これに奇妙な縁を感じた一平は、温泉に没頭するようになったのだ。
古来より温泉は、水の清浄なイメージから宗教との結びつきが強かった。僧侶が修行のために蒸し風呂に入っていた記録が残されている。だが時代が下ると温泉は大衆化。庶民が混浴で風呂に入るようになり、必然的に性風俗の温床となる。それがトルコ風呂につながるわけだが、一平が理想とする温泉は、母親の胎内がごとく神聖なもので、レジャーやセックスとの結びつきと良しとしなかった。そこで各地の秘湯と呼ばれる温泉を巡るが、どこの神聖な温泉にも、観光開発あるいはセックスとの結びつきが垣間見える。調査をすればするほど、一平は自分の理想実現への険しさに絶望していった…。
本作は中島貞夫監督による、「にっぽん'69 セックス猟奇地帯」の続編的内容のピンクドキュメンタリーだ。前半で温泉の歴史を分かりやすく紹介した後は、美容や治療に温泉が利用されている事例、万博に出展された人間洗濯機、70年当時の全国各地の温泉街の様子、そしてトルコ風呂と、社会の表と裏から満遍なく温泉事情を俯瞰しており、映像資料としては相変わらず楽しんで見ることができた。ただ本作、ドラマパートが完全に浮いていた。雑多な前作からの反省か、作品に一貫性をもたせるために設けたと考えられるドラマパートだが、その内容はどういうわけか非常にアバンギャルド。真面目なタッチのドキュメンタリーパートとのギャップが甚だしく、むしろ更なる混沌をもたらしていた。ピンク要素もトルコを紹介する終盤ぐらいだし、前作のインパクトには到底及ばなかった。
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