にっぽん'69 セックス猟奇地帯       「評価 A」
1969年。昭和元禄と呼ばれる泰平の時代。しかし日本列島最先端の町・新宿駅東口広場に来てみると、フーテン族がシンナー遊びに興じる傍ら、集会中の全学連が声を張り上げている。夜になればヌード劇場やトルコが賑わいを見せ、ディスコではベトナムの戦場から戻ってきた白人黒人が踊り狂う。泰平の陰に猟奇あり。「大奥(秘)物語」の中島貞夫による本作は、68〜69年の日本に渦巻く、セックスを始めとした様々なアングラカルチャーを追った和製モンド映画である。
タイトルに「セックス猟奇地帯」とあるように、本作のメインは様々なセックス事情の紹介だ。夜の公園にはびこるナンパ、そしてフリーセックス。暗い密室で密かに行われる乱交パーティー。真夏の無人島で密かに行われるブルーフィルムの撮影。過激さがウリの「関西ヌード」が主流になりつつあるストリップ劇場。赤線廃止後の元遊郭で賑わう、裸になった女と向かい合って話し合うだけの新しい風俗・ヌードスタジオ。北海道の屋台団地で体を売るコールガールたち。そして売春を禁ずる法律が制定されていないため、推定7000人もの売春婦が2ドルで売春を行っている、沖縄の十貫寺──。乱交パーティーやブルーフィルムの撮影現場なんかはどう見てもヤラセなのだが、当時の風俗事情が貴重な映像と共に語られており非常に見応えがあった。
また本作では、セックス以外の猟奇的アングラカルチャーも多数紹介されている。これがまた強烈なインパクトに満ちた映像ばかりで圧倒された。美容整形の紹介では、銀座整形による美容整形手術(隆鼻・豊胸・二重まぶた)の様子をモロに流すという凄まじいことをやってのける。唐十郎率いるアングラ劇団・状況劇場の紹介では、花園神社の境内に紅テントを張って面妖な踊りを披露する団員たちの姿をひたすらに映し出す。ハプニング集団・ゼロ次元商会の紹介では、裸の男たちが日の丸を持って銀座を練り歩く光景だけでも十分すぎる破壊力があるのに、屋内で行われる儀式の様子はそれを軽く凌ぐほどに衝撃的。舞台の上に、M字開脚の姿勢で固定された女性たち。彼女たちの股からはチューブが伸びており、裸の男たちが踊りながらチューブに群がり、我先にと吸引する。その後、男たちは四つんばいになって横に並び、尻に蝋燭をさして火を点ける──。そんな異様な映像の数々の中でも、ひときわ輝きを放っていたのが、マゾヒストのK氏の紹介だ。彼は居酒屋のカウンターの中でうつぶせになり、店で働く女性たちに踏まれてることに悦びを見出している。彼はインタビューにおいて自身のマゾヒスト論を熱弁しており、家畜願望を持つマゾヒストは最後に動物すらも捨ててモノになる、マゾヒストの傾向として餌を貪るブタ派と絶対服従のウマ派がある、などなど実に素晴らしい発言を聞かせてくれた。
この他にも本作、当時安保で隆盛を極めていた学生運動についても紹介していたが、これは正直言って不要だったと思う。TVニュースで見られないような衝撃映像を見るためにモンド映画を鑑賞しているのに、どうしてニュースで散々やっているような映像を流す必要があるのか。
本作を総覧すると、雑多な事象をひたすら羅列した内容のため、ドキュメンタリー映画としてのまとまりに著しく欠けている。またインタビューについても、流れる映像にインタビュー音声が被さる体裁となっているが、音声が聞き取りづらい上、誰が誰にインタビューしているのか分からない箇所が結構あり、あまり評価できたものではない。しかし各々の映像が放つ狂熱は本物であり、また統一感のない内容だからこそ、当時の混沌とした空気を存分に体感することができる。とても充実した映像体験だった。
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