ブーイング・アドベンチャー ギャグ噴射家族     「評価 A」
交通戦争の時代を、恐るべきブッチギリ野郎が駆け抜ける──。奴の名は“弾丸ベビー”! 愛用の乳母車でハイウェイを激走する、ハードなパンパース野郎だ! だが弾丸ベビーの超絶ドライビングテクニックは、時として大きな災いを呼ぶ。凶悪なギャングたちが弾丸ベビーを狙って暗躍し、ハイウェイは粉ミルク色の硝煙が巻き起こる地獄の戦場と化したのだ。やがて弾丸ベビーは警察に捕らえられ、尋問にかけられる。しかし警官がどんなに声を荒げたところで、ベビーは不敵にも「だあだあ」としか喋らない。とうとう弾丸ベビーは、ベビーベッドの監獄に閉じ込められてしまった。果たして弾丸ベビーの運命は! “弾丸ベビー”、近日公開!
これまで映画館は、ある特定の障害をもつ人を締め出していた。そこで今度公開される“ジーナの物語”は、目の不自由な方も楽しめるという画期的な取り計らいに挑戦した。予告編が始まると、画面の端の丸いスペースに解説者が写っている。彼が映画を見ながら、その状況を同時通訳のようにナレーションするのだ。しかし幾ら予告編が進行しても、解説者は喋ろうとしない。ただ座って、タバコを吸うばかり。やがてスタッフにハッパをかけられ、ようやく解説を始めようとしたが、その時には既に“ジーナの物語”予告編もラスト間際。盲目でも映画を楽しめる時代は、まだ遠い。
お次はアカデミー賞受賞監督による、ボクシング巨編“レイジング・ブルシット”の予告編。なんでもすごい感動作らしいが、登場人物たちの台詞は放送禁止用語だらけで、どの場面もピー音だらけな有様だった。
こんなナンセンスな予告編3本が終わると、いよいよ本日のプログラム“アウトドア・ファミリー”の上映が始まる。
エンパイアステートビルをシンボルとする近代的なビル街、上海。どう見てもマンハッタンなのだが、『上海 1913年』とテロップが出ているので、きっと上海なのだろう。さてその上海のビル建設現場で働いていた典型的アメリカ人のグレッグは、「メシ食ってる暇あったらセメント食ってろ!」と口うるさい上司に嫌気が差し、仕事を投げ出した。家に帰った彼は、脳天気な妻バーブ、動物好きな娘バンビ、11歳にして脱税でぶちこまれた息子ビリー、そしておバカな飼い犬のチビに、「都会はもうウンザリだ、これから自然の中で暮らそう」と宣言すると、嫌がる娘・息子に拘束具を着せて住み慣れた家を後にした。ハイウェイを越え、山道を越え、この映画を撮影しているカメラを轢いて、グレッグの車は目的の地ウィルダネスに。そこは都会の喧騒とは無縁の大草原で、周囲の森ではグリズリーやシカやゾウやチーターやカンガルーが棲息している、グレッグにとっては理想とも言える場所だった。早速家族みんなで小さな家を建てると、大自然の中で協力し合い、逞しく生きていくことにした。最初は嫌がっていた子どもたちも、ビリーはスプレーで岩やシカに落書きする楽しさを知り、バンビはグリズリーとの種族の壁を越えた愛に目覚め、すぐに自然の暮らしに溶け込んでいった。そんなある日、グレッグは崖から落ちたネイティブ・アメリカンの青年を助けた。持っていた保険証から名前がウィージュンと判明した青年は、足を骨折していたため、治るまでの間グレッグの家に滞在することとなった。生まれたときから大自然の中で生きていた彼は、グレッグたち一家に様々なことを教えてくれた。森の中には反米テロリストがうろついていることや、罠の仕掛け方など──とここで映画が中断。画面が点滅し、サイレンが鳴る。「これはテストです。核戦争を想定した訓練です」とのナレーションが流れた。どうやら避難訓練の一種らしい。ナレーションは観客の1人に「劇場の地下室に行って、救急箱や非常食を持ってきてください」と指示すると、「慌てず、騒がなければ、きっと核戦争でも生き残れます」と締めくくった。そして映画は、地下室に行ったであろう1人の観客を放っておいて再開する。ウィージュンはそれ以外にも、魚のとり方や、森の楽しみの1つである動物専用のピンク映画館の場所などを教えてくれた。こうしてグレッグの生活は、より一層豊かなものになったのだ。そしてある時、ビリーは環境保護局に連絡し、森林を破壊して舗装してはどうかと話を持ちかけていた。ところが環境保護局の返事はNOだった。近い将来に野生動物および天然資源保護法が制定されれば、喜んで森を破壊しにいくのだが、今の時点ではできないのだという。保護局からの手紙を読んだビリーが残念がっていると、そこに野生のクーガーが現れた。獰猛なクーガーはビリーに襲い掛かろうとするが、間一髪ウィージュンが飛び込み、クーガーを取り押さえた。ここからウィージュンとクーガーの格闘戦に発展──と、ここで画面は暗転。インターミッションのテロップ表示がされ、「明るい米国の会はこれ以上の長時間上映は健康に有害と考えます。しばらくそのままでおまちください」なんてアナウンスが流れると、映画は数分間の休憩に突入する。ポップコーンやコーラが踊りまくるあざといアニメーションや、リアクションがオーバーになる奇病“ジェリー・ルイス病”根絶のための基金のCMなどが流れた後、改めてクーガーとウィージュンの戦闘が再開された。戦いは熾烈をきわめ、見ていたビリーも思わず賭けを開いて儲けようとしたが、あまりに決着が付かないものだからチビが痺れを切らし、クーガーに突撃した。たまらずクーガーは逃げ出したものの、チビはクーガーを追って森の奥に消え、家に戻ってはこなかった。それから季節はめぐり、春が来た。すっかりグリズリーと仲良くなったバンビは、草原の中でグリズリーとのセックスを決行。その光景をキツツキがモールス信号で実況し、たちまちこのニュースは森の動物たちの評判となった。一方で、ウィージュンは足が回復し、遂にグレッグの家を離れることにした。家族に見送られながら、世話になった家を後にするウィージュン。ところが彼は帰り際、「クーガーは戻ってくるぞ」と、ものすごく不吉なことを言い残していった。するとその夜、家のドアを何者かが叩いた。まさか本当にクーガーが来たのか。不安になりながらグレッグたちがドアを開けると、そこにはチビの姿が。チビが久々に、家へと戻ってきたのだ。どうやら心配は取り越し苦労──で済めばいいのだが、グレッグが「こいつ、以前のチビとは違うかもしれない!」なんて言っちゃうものだから、他の家族もチビに向かって「死ね!」「ぶっ殺す!」と散々に言い出した。終いには持っていたライフル銃でチビを撃ち、事を収めるのだった。しかしその翌日、家の庭には元気に走り回るチビの姿が。撃ったのが麻酔銃だったおかげで、辛うじて一命をとりとめていたのだ。代わりにチビは麻薬を打たれる快感に目覚め、麻酔銃を撃ってと頻繁にせがむようになったが、何はともあれこれで家族は改めて1つになった。彼らは今後もこの大草原の小さな家で暮らしていくだろう──と思っていると、家の近くが何やら騒がしい。見ると、草原に立派な住宅が建ち、都会人たちが移住して来ているではないか。しかも住宅の周辺には“ウィージュン不動産”の看板が。どうやらウィージュンが、近隣一帯を買って不動産を始めたらしい。このままでは更に多くの都会人がやって来る。そこでグレッグたちは家を捨て、別の居住地を探しに行くのだった。だが映画“アウトドア・ファミリー”は既に、9本の続編と1本のファミコンソフトを製作することが決定している。グレッグが理想の居住地に巡り合うのは、まだまだ先のことになりそうだ…。
ロイド・カウフマンの実の弟、「マザーズデー」のチャールズ・カウフマン監督による、異様なネタの密度を誇る傑作コメディ。「マザーズデー」はトロマらしい馬鹿馬鹿しさをもちながらホラーとしての純粋な面白さも持ち合わせた良作で、つくづくチャールズ・カウフマンのバランス感覚に感心させられたものだが、そんな彼が純度100%のコメディを作ったのだから、それはもう凄まじい出来となっていた。初っ端の「弾丸ベビー 予告編」で度肝を抜かれたと思いきや、その後もトロマ特有の下らないギャグが怒涛のごとく押し寄せ、全くテンションの落ちることなく一気にラストまで引っ張られるのだ。
しかし一方で、ネタの内容は万人ウケするものが多く、その点はエロ・グロ・お下品ネタ満載なロイド・カウフマン作品と大きく異なっていた。スプラッター要素は皆無だし、エロシーンの描写も最小限に抑えられている。不謹慎ネタは満載なので流石に「ファミリーで見られる」とまではいかないが、それでも他の多くのトロマ映画に比べたら、遥かに間口が広い作りであることは確かだ。
基本的な内容はトロマでありながら、きちんと一般層にも楽しめる余地を残す。そんなチャールズ・カウフマンの取り計らいが、「マザーズデー」同様に感じられた作品だった。
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