巨象の道 「評価 B」
イギリス人女性のルースは、紅茶農園を経営する大富豪ジョン・ワイリーと結婚し、彼が暮らすセイロンへとやってきた。ジョンの屋敷は彼の亡父トム・ワイリーが“巨象の道”と呼ばれる地に築き上げた壮麗なもので、初めはルースもひたすらに感激するばかりだった。しかし屋敷に住んでいるうちに、徐々にジョンや使用人たちの異常性が垣間見えてきた。彼らは皆、この地を開拓したトム・ワイリーに対して崇拝とも呼べるほどに傾倒しており、トムが死んだ今も尚、彼が定めたしきたりを一途に守り続けていたのである。そんな彼らは、しきたりを守らないルースを軽蔑し、執拗なまでに疎外していく。ルースはその窮屈さに耐えられなくなり、気ままな技術者のディックと共に屋敷を抜け出そうと考えるようになった。しかしそんな折、農園にてコレラが発生。ルースはジョンや使用人たちと団結し、患者の隔離や感染者の出た家の焼却など、事態の収束に務めた。彼らの懸命な努力の甲斐あって、やがてコレラの発症は途絶え、全てが元通りになるかに思われた。ところが災難は、これで終わりではなかった。連日の日照りに苦しんだ象の大群が、水を求めて大移動を開始。“巨象の道”上に存在するトム・ワイリーの屋敷へ、一挙に押し寄せてきたのだ…。
「ゾラの生涯」「ノートルダムの傴僂男」のウィリアム・ディターレ監督によるメロドラマ。大自然の中で暮らす夫のもとに都会暮らしの妻がやってきて、クライマックスでは自然の猛威が夫婦を襲う──という本作のプロットは、同じく54年製作の蟻映画「黒い絨毯」を彷彿とさせる。ただ「黒い絨毯」の方は、蟻の大群に果敢に立ち向かい、難を逃れてハッピーエンドという、ある種の自然征服的な視点で物語が進行していたのに対し、本作では自然を征服して建てた屋敷が無惨に破壊されてハッピーエンドと、まるで逆の立場になっているのが面白い。
そんな本作の見所は何と言っても、クライマックスにおける巨象の大群の襲撃シーンだ。本物の象の大群が外壁を破壊して屋敷に突入し、家具や階段をもりもり壊していく様は、まさに圧巻の一言。さらに象たちに蹂躙されるのが、これまで散々ルースとジョンを苦しめていたトム・ワイリーの屋敷なものだから、破壊から得られるカタルシスは並大抵のものではなかった。また本物の象たちが走り回っている屋敷内を、ピーター・フィンチやエリザベス・テイラーといったスター級の俳優がスタントなしで移動する、なんて実に無茶な光景が拝めるのも本作の凄いところ。たとえ象の襲撃がラスト10分しかなくても、存分に楽しむことができる作品だった。
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