ドクター・ゴア 死霊の生体実験        「評価 C」
形成外科医ブランドンの妻アミトラが死んだ。彼女のことが諦め切れないブランドンは、アミトラを蘇らせるため、従者のせむし男グレッグと協力して狂気の研究に手を染めた。催眠術を使って近所から美女たちを攫い、彼女たちの美しい四肢を切断。それらを繋ぎ合わせて、アミトラの新しい肉体を作り上げたのだ。かくして蘇ったアミトラには一切の記憶が無かったものの、ブランドンは彼女に様々な教育を施し、楽しい日々を送った。ところがそんな蜜月も、ブランドンは自分の不注意によって呆気なく手放してしまうのだった…。
スプラッターの祖H.G.ルイスの弟子にあたるパット・パターソン監督によるスプラッター映画。映画冒頭に師匠ルイスが登場し、「パットは監督・俳優・スプラッター効果の全てをこなせる人間だったが、作品が日の目を見ることが無いまま74年に亡くなった。この映画は荒削りだが、パットの自画像的な作品だ」と解説を述べているのが泣かせる。作品は「顔のない眼」と「傴僂男ゴト 戦慄の蘇生実験」をミックスしたようなプロットで、古城やせむし男、催眠術といったクラシカルな小道具を配していながら、一方の解剖シーンでは、太ももをノコギリで切断したり、眼球を摘出したりと凄絶なゴア描写が満載。そのギャップが戦慄を倍加させていたのは、まさにルイス映画と一緒だった。ところがこの作品、恐怖感以上にユルユルな雰囲気が映画全体を支配していた。死体が死後硬直で起き上がり、びっくりしたグレッグが飛び上がるなんてユーモラスな描写が数多く盛り込まれているし、作中では気の抜ける電子音によるBGMが頻繁に流れる。相次ぐ女性の失踪に不審に思った警察が訪ねてきても、「違法行為はないかね」「私は医者だ」「こりゃ失礼」という会話だけでアッサリ帰ってしまう腑抜けた脚本。ブランドンとアミトラの蜜月を過ごす様子が甘い音楽をバックに10分近く流される凄まじい演出。そしてブランドンがアミトラを1人にしたせいで彼女を手放してしまうマヌケなラスト──などなど、映画は脱力モノな要素に溢れかえっており、観ていて物凄くほのぼのとさせられたのだ。映画の出来はルイスが評していたように非常に荒削りで、お蔵入りになったのも頷けるレベルなのだが、終始漂う長閑な空気が嫌いになれない作品だった。
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