怒りの湖底怪獣 ネッシーの大逆襲     「評価 D」
1980年。スコットランドのネス湖には、ネッシーを捕まえて一儲けしようと企む連中が度々訪れていた。大抵の場合はネッシーを見つけることができず、諦めて引き返していくのだが、今回来た2人組は運良くネッシーが顔を出す現場に遭遇した。彼らは水中に潜ってネッシーを追ったところ、湖の底の朽ち果てたドイツ軍の爆撃機のすぐ側に、ネッシーの巣を発見。ネッシーの攻撃によって1人が命を落とすものの、もう1人は巣から卵を奪い上げ、命からがら陸へと逃げ延びた。一方、地元でネッシーの保護をしようと活動している科学者ジョージのもとに、彼の考えに賛同するアメリカ人スペンサーがやって来た。スペンサーはまずネス湖の地理を把握するため、ジョージの案内により、湖について良く知っている地元貴族ジャックの屋敷を訪れる。ジャックの偏屈な性格に閉口させられるスペンサーだったが、同居する孫娘ケイトに一目惚れ。彼はジャックたちの助言により調査を行いながら、ケイトとの仲を親密にしていくのだった。ところがその頃、ネス湖周辺では、卵を奪われ怒り狂ったネッシーが陸に上がり、観光客たちを次々と血祭りにあげていた…。
ラリー・ブキャナンという映画監督がいる。「原子怪獣と裸女」のリメイク作「原子怪人の復讐」、「金星人地球を征服」のリメイク作「金星怪人ゾンターの襲撃」、「海獣の霊を呼ぶ女」のリメイク作「悪魔の呪い」など、往年のSF映画を何本もリメイクしている監督だ。本作はそんな彼が手がけた、数少ないオリジナル作品である。とは言えこの映画、散漫な脚本にチープな演出、そしてあまりにも稼動部分の少ないネッシーの模型と、どこを取ってもロークオリティな出来で、到底評価することはできなかった。
まず脚本についてだが、物語のメインとなる事件──ネッシーの襲撃に関して、主役であるはずのスペンサーが全くの蚊帳の外というのは如何なものか。色んな人々が、寝袋で寝ているところを襲われたり、古城でジジイを撲殺した帰りに襲われたり、警察の検問に引っかかっているところを襲われたり、ドイツ軍の戦闘機を調べている間に襲われたりしていても、スペンサーは我関せずと、女を口説いて湖を調査しているだけという、何とも驚嘆すべきストーリーが展開していたのだ。無論クライマックスの対決においても、彼はケイトを侍らせ傍観しているのみ。そのくせラストでは、ちゃっかり回収した卵を湖に返し、美味しいところを持って行っちゃうのだから、本当に大した主人公様である。また余計なサブエピソードがやたらと多く、物語の筋があっちこっちにフラフラして纏まりが無いのも、大きな欠陥と言えるだろう。
そして演出面では、襲撃シーンにおける緊張感の無さが殊更に目を引いた。ネッシーが襲撃する各場面は、どれもこれもテンポが悪い上、恐怖を盛り上げようという気概すら感じられないヘナヘナ感が漂っていたのだ。たとえば最初の襲撃シーンでは、ネッシーが寝袋で寝ている男を襲う。鋭い歯を剥き出しにして男に接近してくるので、てっきりその歯で彼を噛み殺すのかと思いきや、ネッシーは何故か彼が入っている寝袋の方に噛み付いた。そして寝袋をズルズルと湖の中に引きずり、男を溺死させるのである。ただ殺すだけなら噛むだけでいいのに、どうしてこんな無駄な労力を使って殺すのだろうか。不思議に思えてならなかった。そんな具合にダウナーな襲撃シーン群の中でも、特に極めつけと言えるのが、卵を手に入れた老人がネッシーに襲われる場面である。この老人は一連の騒動の原因とも言える存在なので、是非とも派手に殺され、カタルシスを引き出して欲しいところだ。そして実際、この老人が殺されるシーンでは、他の襲撃シーンとは一味違う演出が施されていた。とは言え、四肢が噛み千切られるといった惨い死に方をするわけではなく、ただ直接噛まれる描写が入るだけだが(そもそも他の襲撃シーンでは、噛まれる描写すらないのだ!)。おまけにこの襲撃シーン、老人がネッシーに噛まれて絶叫するカットが延々と続くという、製作者の正気を疑うような壮絶な内容だった。老人が腕を噛まれて叫び声を上げるカットが30秒、それが終われば、今度は頭を噛まれて叫び声を上げるカットが30秒続くという有様。しかもいずれのカットにおいても、ミシミシ…と噛む音こそ入っているが、ネッシーの歯は老人の腕や頭に食い込んでいないし、老人の体からは血の一滴も出ていない。そしてネッシーが去ると、老人の死体すら画面に出てこないのである。実にカタルシスもへったくれもない、脱力ここに極まれりな珍場面だった。当然このションボリ感はクライマックスにおいても健在で、戦闘機を調べに来たダイバーをネッシーが襲うのだが、ネッシーが近寄るといきなり水の色が真っ赤に染まる。どうやら画面に映っていないだけで、ダイバーは噛み付かれていたらしい。しかし水が赤く染まったせいで、ダイバーとネッシーが水中で何をしているのか、まるで判別できなくなるのは困った。おかげでダイバーがじたばたしていたかと思えば、急に戦闘機に積まれていた水雷が爆発し、ネッシーが木っ端微塵になるという、観ている側にとって物凄く消化不良な終わり方をしていたのである。
最後に本作、ネッシーの造形についても酷いの一言。作中では陸上用と水中用の2パターンのハリボテが使われていたのだが、いずれも表面がツヤツヤしていて生物っぽくないし、作っているのは頭と首の部分だけのようで、胴体以下の部分が全然画面に映らないのは何とかして欲しかった。しかもこのハリボテ、陸上用の方は、首が若干ではあるが稼動したり、口がパクパクしたりと最低限のギミックが搭載されていたものの、水中用の方はそんなギミックが一切存在せず、ただ水中でアングリ口を開けているだけで、見ていて泣けてくるほどに哀愁を漂わせていた。何もかもが観客を脱力させるために作ったとしか思えない、一種の奇跡のような作品だった。
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