へルター・スケルター 「評価 A」
1969年8月9日土曜日の夜、ビバリーヒルズのロマン・ポランスキー邸にて、妻シャロン・テートが友人たちと共に殺された。翌朝、通報を受けた警察が駆けつけたところ、第一発見者の家政婦は半狂乱状態。家の中は無惨なまでに損壊された死体が幾つも転がっており、目を覆わんばかりの有様だったからだ。そして事件の捜査が開始されて間もなく、警察は不気味な噂を耳にする。カリフォルニアのスパン牧場に居座るヒッピー集団"マンソン・ファミリー”を束ねる、チャールズ・マンソンという男。彼はシャロン・テート殺害事件の前後に発生している様々な犯罪について、裏で糸を引いているらしいのだ。更にファミリーの一員が「シャロン・テート殺害もマンソンがファミリーに指示して実行させた」と発言したのを受け、警察はチャールズ・マンソンとファミリーの女性たちを拘束した。当初は証拠物品が見つからなかったので、自動車泥棒などの別件について裁くことしかできなかったが、やがてマンソンが持っていたという凶器の22口径が見つかり、ようやく殺人事件の審理が行われることとなった。裁判の中で、ファミリーの構成員たちが明かす事件の全貌。それはあまりにも常軌を逸した、人間の所業とは思えないものだった…。
「マンソン 悪魔の家族」「スナッフ」等、マンソン・ファミリーを題材とした映画は数多くあるが、それらの決定版と言えるのが本作だ。「軍用列車」のトム・グライス監督による本作は、過度にセンセーショナリズムを煽るようなことをせず、死体描写はアッサリとしているし、殺害シーンも抑え目の演出で処理されている。しかしマンソンや取り巻きの女性たちを演じる役者たちの熱演が、それらを補って余りあるぐらいの戦慄を味わわせてくれた。犯罪を告発されたと知っても眉1つ動かさず、中空を見つめ続ける。法廷で検事に対して不気味に笑いかける。審判中に突然大声で喚き立て、法廷内で暴れ回る。実におぞましいまでの狂気を孕んだ演じぶりで、本作を数あるマンソン映画の中でも屈指の恐怖篇たらしめていた。また、あくまで事実を描くことに主眼が置かれているため、事件の経過は分かりやすく説明されているし、法廷でのやり取りも見ごたえがある。本作はこういった基礎の部分がしっかりしている故に、マンソンたちに扮する俳優たちの異常演技が一層際立って感じられたのだ。
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