カンニバル! THE MUSICAL      「評価 A」
19世紀末、コロラド州の小さな田舎町ブレッケンリッジでは、アルファード・パーカーという男の裁判が行われていた。検察たちの話によると、彼は仲間たちと共に金鉱を求めてコロラドにやってきたものの、山の中で飢えに苦しんだ末、仲間たちを殺し、その肉を食べて生き延びたらしい。裁判では誰もが彼を非難し、このままではアルファードの絞首刑は確実だった。そんな時、デンバーの新聞記者ポーリーが町を訪れ、獄中のアルファードにインタビューを行った。ところが彼の口から語られた事件の真相は、検察たちの話とはかなり事情が異なっていた。かつてユタの寂れた鉱山で働いていたアルファードは、新しい金脈を見つけようという仲間の誘いに乗り、愛馬リアーンに跨って故郷のコロラドに行くことにした。しかしその途中、ロッキー山脈に差し掛かったところで、リアーンは柄の悪い猟師たちに盗まれてしまう。ベルを始めとする仲間たちは「馬のことは忘れよう」と言うが、リアーンのことを諦め切れなかったアルファードは、進路を外れて南へ南へ向かうことにした。やがて彼らは道に迷い、食料が尽きて飢えに苦しむことに。そんな中でアルファードは、仲間たちと離れて人里に出る道を探そうとした。しかしアルファードが彼らの拠点に戻ってみると、発狂したベルが他の仲間たちを惨殺していたのだ…。
「サウスパーク」のトレイ・パーカー監督・脚本によるスプラッターミュージカル。本作はトロマ社からリリースされているとは言え、元々はトレイが大学在籍時に製作した(そして製作に専念するあまり大学をクビになった)インディーズ映画だ。だからグログロな残酷描写やベタベタな演出、唐突な日本ネタといった、トロマ映画に通じる要素こそあれど、その根底には「スピリット・オブ・クリスマス」等のトレイ作品に通じるファンシーでドリーミーな要素が含まれており、「下らなさこそが全て」なロイド・カウフマン&マイケル・ハーツのトロマ映画とは一味違う内容となっていた。特にそれを強く感じさせるのがミュージカル場面で、登場人物たちが「オクラホマ!」ばりに陽気に歌い踊る様子は、たとえその前にゲロゲロな場面があったとしても観る者の心をいっぺんに幸せに引き戻してくれるパワーがあった。勿論作中に織り込まれているネタの数々も秀逸で、羊を見てズボンのファスナーを下ろした男に対し「やめろ! こいつは食料だ!」と諌めるお下品ネタや、インディアンたちが日の丸を書いたテントに住んでいて「この映画、すっごいバカな映画だなあ!」とか「やあやあやあ、よく来たなあ! 君がこの映画の主人公だろう!」と日本語で喋りまくるネタ、銃殺された仲間の幸せそうな死に顔を何度も写すネタに、ベルが包丁に銃弾に木の枝にツルハシを浴びても尚立ち上がってくるネタなど、どれもこれも抱腹絶倒させてくれるエネルギーに満ち溢れている。そして本編が終わり、エンドロールが流れた後に「この映画にはエグい場面があります。ガキンチョには見せないでね」という親切丁寧な忠告が入るのも、人を食ったイタズラが好きなトレイ・パーカーらしさが輝いているし、最後の最後まで存分に楽しませてくれる作品だった。
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