ザ・アビス 首都沈没 「評価 A」
ドイツのとある都市では、地盤沈下による災害が頻発していた。地質学者のニーナが超音波探知機で地中を調べたところ、町の地下に巨大な空洞があることが判明した。かつてこの町の地下には巨大な鉱山が掘られており、9年前の爆発事故をきっかけに閉鎖されていた。閉鎖された坑道は地盤沈下を防ぐため、鉱山のオーナーだったモンタン社が責任を持って土で埋めたはず。だが空洞が残っているということは、どうやらモンタン社は工事を中途半端な状態で終わらせていたらしいのだ。それを知ったニーナはモンタン社を責め立てるが、会社は「確かに坑道は埋めた」の一点張り。町の住民を避難させるべきと消防署に呼びかけても、「探知機の写真一枚で出動はできない」と、軽くあしらわれた。しかしこのままでは、町の至る箇所が陥没し、終いには何万もの観客が押し寄せている町外れのサッカースタジアムが崩壊して大惨事になってしまう。そこでニーナは被害の拡大を防ぐため、独自に事態の打開をしようと動き出した。かつて鉱山で働いていた父親たちと共に坑道に潜りこみ、爆弾を使って地下の巨大空洞に砂利を流し込もうとしたのである。地盤沈下による落盤に何度も見舞われながらも、少しずつ目的の巨大空洞へと向かうニーナたち。だがある程度進んだところで、同行していた元鉱夫の男が何者かによって刺殺される事件が発生した。いったい誰が男を殺したのか。一行は重大な任務を抱えているというのに、互いに疑心暗鬼に陥ってしまった…。
「パニック・イン・ザ・ビルディング」に「ジェットローラー・バス」に「ホスタイルグラウンド」と、地震や火災に比べたら今一つマイナーな印象を拭えない地盤沈下映画。だが地盤沈下という災害そのものを考えると、地震に負けないスケールの被害をもたらすことだって可能だし、災害を防ぐ方法にしても「ホスタイルグラウンド」のように色々と工夫の余地が考えられる。要は見せ方次第で、十分に楽しめるパニック映画を作ることができるのだ。久々の地盤沈下映画である本作は、スペクタクル感溢れる災害描写と娯楽要素をてんこ盛りにした脚本で、地盤沈下映画の可能性を存分に見せつけてくれた快作だった。
まず主軸となる地盤沈下描写からしても、湖の水が風呂の栓を抜いたように地中に流れ落ちていく冒頭シーンに始まり、調査現場が巨大な穴と化す、公園でランニングしていた人間の足元が崩れ落ちる、車の行き交うハイウェイが地中に沈んで何台もの車が地中に落下していく──と、どれもこれも「いつもの風景が突然消滅する恐怖」を描くことに徹底しており、並々ならない興奮を味わわせてくれる。更にニーナたちが坑道に入り込んでからは、落盤やガス爆発のような視覚的な描写ばかりでなく、換気装置の電源コードが切られて空洞内の酸素がどんどん少なくなる、といった精神に訴えかけてくるような危機描写も盛り込まれ、パニック映画好きを否応なしに愉しませてくれるのだ。ただ中盤に発生する密室殺人事件は、二転三転する展開こそ面白かったものの、真相に大きく絡んでいる「鉱山の爆発事故」について説明不足気味だったので、いまいち盛り上げに欠けていた。
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