クローバーフィールド HAKAISHA 「評価 A」
マンハッタンで発見された一本のビデオテープ。それにはニューヨークで発生した“或る重大事件”の様子が、実に克明に、生々しく記録されていた。テープを再生してみると、まずは事件当日の朝、サプライズパーティーの準備をする若者たちの姿が映し出される。彼らはこれから起きる事件のことなど露知らず、平々凡々とした日常を淡々と過ごしていた。やがて夜になり、パーティーは開かれた。若者たちはアパートの一室に集まり、大いに騒ぎ合う。ところがパーティーの盛り上がりが一段落した時、突如として巨大な爆発音が響き渡り、アパートは激しく震動する。その瞬間からごく普通のビデオテープは、ニューヨークを襲った事件の貴重な映像資料となったのである…。
一本のビデオテープに記録されていた映像から謎の事件の動向を追っていく、記録映像風フィクション。この手法自体は「食人族」や「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」でも使われており決して珍しいものではないものの、本作は前の二作と大きく異なる点がある。この映画では扱う事件を桁外れに大規模にしたことで、「本当にあったかどうか分からない」といった現実と空想の狭間で観客の恐怖を誘うのを大胆にも捨象しているのだ。しかしだからと言って、決してつまらなくなったわけではない。むしろマクロな事件をミクロな視点から描くことに腐心しているが故に、大事件を間近で観ているかのようなスリルを存分に味わえ、前二作とは全く違った面白さがあったのである。また本作のビデオテープは、元々記録映画を撮るつもりで撮られた設定でないのも注目すべき点だ。テープ自体が既に記録されていたものを上書きしたものである上、事件を記録することになったのもパーティーを撮影していたことからの成り行きによるもの。そのためカメラの前に登場する人物は殆どの場面において畏まっておらず、より生々しい感覚で事件の様子を観ることができたのだ。更に上書きしたテープであることを活かし、大事件の映像の合間合間に平和な日常の映像が織り込まれるのも憎い演出。平和な日常の中で放たれるラストの台詞もバッチリ決まっており、記録映像風映画の新しい可能性を垣間見せてくれる作品だった。
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