バスケットケース         「評価 S」
良い所の家に生を受けた双子の兄弟、ベリアルとドゥエインはシャム双生児だった。五体満足な弟ドゥエインの脇腹に、兄ベリアルの顔と両手が寄生するように存在していたのである。これを快く思わなかった父は二人に無断で医師を集め、ドゥエインの体からベリアルを切除し、ベリアルの存在を闇に葬ろうとした。しかし親切な叔母のおかげで辛うじて生き永らえたベリアルは、ドゥエインと協力して父を殺害。更に自分を抹殺しようとした医師たちも皆殺しにすべく、自分の入ったバスケットケースをドゥエインに運ばせ、彼らのいるニューヨークへと向かったのだ。そして着々と復讐を完遂していく二人だったが、それに平行して、兄弟の間にある深い溝が浮き彫りとなっていった…。
シャム双生児の悲愴な運命を血みどろの演出で綴る、フランク・ヘネンロッターの代表作。ベリアルは丸っこいシルエットといい、粗いコマ撮りでカクカク動く姿といい、一見すると「ブレイン・ダメージ」のエルマーのようなユーモラスな味わいのキャラクターである。でも怪生物だったエルマーとは違い、ベリアルは紛れも無い人間なのがミソだ。彼は弟と同時に生を受けながら、弟の体に寄生した形だった故に父親達の手で切除される。しかも切り離された彼の体はゴミ袋に入れられて家の庭先に捨てられ、彼の人間としての尊厳は完膚なきまでに否定されてしまうのである。だからこそベリアルが乾いた声で「ウワアアアア」と叫びながら医師たちを殺す場面は、どれだけ強烈な残酷描写に塗れていても、尋常でない哀愁を感じさせるのだ。またこの映画、前半部分ではベリアルの出生の秘密を明かさず、単なる奇怪な殺戮生物として描写しているのも憎いところ。まず観客達には劇中の一般大衆と同じ視点からベリアルの姿を見せ、中盤で彼の秘密を明かすことで、彼が内に湛える悲哀を一層際立たせていたのである。
そしてベリアルのみならず、彼と行動を共にするドゥエインにも同様に辛辣な運命が待ち受けている。手術によりフリークスでなくなったドゥエインは、遂に普通の人間としての幸せを掴めるようになった。でも生まれつき持っていたテレパシー能力のおかげでドゥエインとベリアルは常に頭の中で繋がっており、脳内にはベリアルの言葉が流れ続け、ベリアルが殺戮を行うとドゥエインの頭の中にまで不快なイメージが発生し、彼の心を掻き乱す。兄の存在が枷となり、ドゥエインは目の前にある幸せを何時まで経っても掴むことができないのだ。ドゥエインはベリアルを心底憎み、酒を飲んだときには痛烈な愚痴までこぼすほどだったが、それでも兄弟の絆からベリアルの復讐には加担し続けた。しかし当のベリアルは自分にはない五体満足な肉体を持つドゥエインを妬んでおり、何の躊躇いもなしにドゥエインの手元から全てを奪い去ってしまう。それを知ったドゥエインは怒り狂い、ホテルの一室でベリアルと対決する──。フリークス本人とフリークスを支援する者、いずれの末路も心を打つ作品だ。
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