黒い太陽七三一 戦慄!石井細菌部隊 「評価 A」
中国東北部のハルビン平房区。1945年、ここには石井四郎中将率いる満州七三一部隊の研究施設があった。彼らは新型の細菌爆弾を一日も早く完成させるため、現地の民間人を「丸太」と称しては、日夜行われる人体実験の材料に使っていた。そして拷問と大差ない実験を繰り返した結果、七三一部隊は殺傷力の高い陶器爆弾の開発に成功するものの、前線での日本軍の戦況は悪くなる一方。やがてソ連軍が日本に宣戦布告し、施設が攻め込まれるのも時間の問題となった。研究機密が漏れてしまうことを危惧した石井中将は全軍に対し、「丸太」と資料を完全処分の上、施設から撤退するように命じた…。
七三一部隊の所業を禍々しさたっぷりに綴った、人体実験映画の究極形態とも呼ぶべき怪作。七三一部隊についての説明がなされるオープニング部分は一切のBGMが流れない淡々とした雰囲気で進行し、早くも尋常じゃないほどの不安な気分が込み上げてくる。それが終わると研究施設に配属された少年兵たちの話に移り、少年兵たちが本物のネズミが何百匹とひしめく部屋の床を転げ回ったり、実験台を集めてきた兵士が生後三ヶ月の赤ん坊を雪に埋めて殺害したりといった十分にショッキングな場面が続くのだが、これも本作にとってはまだ露払い程度に過ぎなかった。上官が少年兵に対して被験者が「丸太」であることを教え込むシーンを皮切りに、映画はグレタ様もイルサ様も裸足で逃げ出すほどの鬼畜拷問ショーへと様変わりしてしまうのだ。
まず凍傷の実験では、被験者の凍らせた腕を急速に温め、ボロボロになった肉を骨から剥ぎ取っていく。被験者は骨だけになった両腕を目の当たりにしてしきりに泣き叫ぶ。別の被験者の両手を瞬間冷凍して粉砕するシーンもあった。陶器爆弾の性能を試す実験では、磔にした被験者たちの間近で爆弾を破裂させる。当然被験者は全身血まみれになって痙攣し、その傍らには千切れた足が無残にも転がっていた。減圧の実験では、密室に入れられた被験者がもがき苦しんだ末、尻から1メートル以上もの脱腸をして果てる(飛び出す腸が殊更にリアルなのがまたムゴい)。毒ガスの実験では、縛り付けられたロシア人母子と一羽の鳩を立ち込めるガスが容赦なく襲う。そしてこれら人体実験の極めつけとなるのが、臓器の標本を手に入れるために唖の少年を解剖するシーンだ。なんでも本物の死体を使って撮影したらしく、切り口から溢れ出る内臓の生々しさといったらとても正視に堪えないほどである。しかも本作は半ドキュメンタリー形式になっているのがミソで、誰かが実験で殺されるたびに「一九四五年○月○日 被害人:○○ 漢族 ○○歳」とテロップが出てきて、観る者を一層ブルーな気持ちにさせてくれた。
以上のような人間虐待のみならず、本作は動物虐待のシーンも同様におぞましい。先述のネズミ部屋に猫を放り込み、抵抗する猫が大量のネズミに食い殺される様を見物するという猫好きならショック死してしまいそうな場面が用意されていたかと思いきや、そのネズミたちもクライマックスの施設炎上の際、全身火達磨になってもがき苦しむ役をやらされるのだ。
少年兵たちが上官に反逆行為を働いたことが有耶無耶のうちに流されていたり、被験者たちが資料を入手する過程が分からなかったりと、ストーリーでは腑に落ちない点も多々あったが、実験シーンの凄絶さを前にしてはそんな欠点など大したこと無いように感じられた。あまりもの強烈な場面の数々に、吐き気を催さずにはいられない作品であった(エンディングもまたBGMが流れない仕様で、後味の悪さばかりが残る)。
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