ザ・チャレンジ 最後のサムライ       「評価 B」
ロスの貧民街に暮らすリックはヨシダ・トシオと名乗る日本人から、一振りの刀を京都まで輸送する仕事を依頼された。報酬を弾んでくれるらしいので取り敢えず引き受けたリックだったが、実はヨシダの家ではこの刀を巡って激しい抗争が繰り広げられていた。ヨシダ家の異端児であり裏社会の大物であるヒデオは、刀を奪い取らんと執拗にリックたちを付け狙う。リックは辛うじて彼の組織からの追撃を振り切り、無事京都のヨシダ本家に到着することができた。そしてリックは、初めこそさっさと報酬金を貰って自国に帰ろうとしたものの、やがて武士の魂に目覚め、家主に弟子入りを願い出る。厳しい修行を積み、家主の娘アキコとも仲良くなるリック。ところがある日、ヒデオが一計を案じてアキコを誘拐した。彼女の命が惜しくば刀を渡せというのだ。リックは怒りに燃え、家主と共にヒデオが待つ巨大ビルへと襲撃をかける。現代を生きるラストサムライたちの戦いが、今始まった…!
「影なき狙撃者」「ブラック・サンデー」といった傑作サスペンスから「プロフェシー 恐怖の予言」「D.N.A. ドクター・モローの島」といった微妙なモンスター映画まで、幅広いジャンルの作品を手がける職人派、ジョン・フランケンハイマー監督によるバイオレンス・サムライ映画。冒頭、琴と篳篥による雅やかな音楽が流れて和のムードを盛り上げたかと思いきや、いきなり日本の家屋で子供が切り伏せられ、背中がパックリ割れているのが大写しになって度肝を抜かされる。他にも顔をナイフで切り刻んだり、日本刀の一閃によって首が縦に割れたりと、凄惨な流血場面が唐突に織り込まれてきて観る者を仰天させるものの、これはまだ本作品においてオマケ的な要素に過ぎなかった。と言うのもこの映画、日本で撮影が行われ、しかも三船敏郎に中村敦夫と日本映画界の大物俳優二人を使っているにもかかわらず、日本の文化描写があらゆるニンジャ・サムライ映画を軽く凌いでしまうほどに無茶苦茶だったのである。中盤の食事シーンで生きたドジョウをコップに入れて一気飲みしたかと思えば、師範代の男が石畳の上に文机を置いて書き物をしている、修行のために土の中に埋まって飲まず喰わずのまま5日間を過ごす、弓矢で武装したヨシダが敵の潜むビルまでタクシーに乗ってくる──などなど、そのカオスな光景は、東南アジアで撮られたあらゆるニンジャ映画よりも日本からは程遠いものだった。クライマックスの戦闘シーンでは完全にサムライとニンジャを混同している様子が見受けられ、サムライのはずのヨシダたちが手裏剣や撒き菱を平気で使っている上、姑息にも物陰から闇討ちをかけて敵の始末をしていた。でもオフィスを舞台にしたチャンバラシーンだけは、ホチキスを額に打ち込む、相手に電気コードを切らせて感電させるなど、その場の道具を上手く活かしたバトルが面白く描かれていて悪くは無かった。
そしてこの映画、脚本もまた酷い。主人公のリックは自分の命惜しさに何度もヨシダを裏切ってとても感情移入できるような人物ではないし、そんなリックを土の中に5日間埋めただけで許し、以後全面的に信頼を寄せるようになってしまうヨシダも変だ。ラストも「なんじゃコリャ」な終わり方で、あまりに理解不能すぎるものだから笑いが止まらない。ニンジャ好きもサムライ好きもバイオレンス好きもお馬鹿映画好きも等しく楽しめる、非常に素晴らしい娯楽作品である。

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