悪魔の沼              「評価 A」
テキサスの片田舎に、宿屋を営んでいるジャドという老人がいた。彼の宿には町を通りかかった旅行者などが頻繁に泊まりに来たが、何故かその後、宿泊した者の消息が途絶えることがあった。そしてまた、一人の娘が宿を訪れたのを最後に姿を消した。彼女の父親と姉はこれを不審に思い、保安官のマーティンと共に娘の行方を追う。やがて父親は単身ジャドの宿を訪れたのだが、その時だった。ジャドが振り回した大鎌によって、彼は首を切られてしまう。宿の脇には深い沼があり、そこにはアフリカ生まれのワニたちが大量に棲息している。ジャドはワニたちを養うために、宿の客を惨殺しては沼の中へ放り込んでいたのだ…。
トビー・フーパーが「悪魔のいけにえ」に次いで製作した、これまたテキサスを舞台にしたサイコスリラー。ワニが物語上重要な役割を与えられている映画としては「パニック・アリゲーター 悪魔の棲む沼」より2年早く、ある意味ワニ映画界のパイオニア的存在とも言えるのだが、残念ながら本作のワニたちは非常に消極的。人間の方から沼地に近づいてこない限り、決して人を襲おうとはしないのである。ワニたちのサイズも小さめで、滅多に水上に顔を出さないのも困りもの。後年の「レプティリア」のようなワニの活躍を期待するとガックリきてしまうだろう。
しかし本作は、先述の通りサイコスリラーなのである。ワニの暴れ様こそ大して拝めないが、その分セピア調の照明と霧が織り成す禍々しい雰囲気作りや、主人公のジャドの素敵なまでの狂気描写が、作品全体に只ならぬ魅力を振りまいていた。特にジャドは冒頭でいきなり鋤を用いて娘をメッタ刺しにしたかと思えば、その後はカール・ドライエルの「ヴァンパイア」に出てくるような巨大鎌を携えての大ハッスル。この鎌、それ自体は「悪魔のいけにえ」のチェンソーに比べるとややインパクト不足ではあるものの、オヤジの首の前半分だけに刃が食い込んだりといった念入りな表現によって陰湿さを増していたのは好印象だった。そしてジャドを演じるネビル・ブランド自身の演技も素晴らしく、床下を逃げる少女を執拗に追い詰める場面での血走った目や、沼のワニたちに対してブツブツ不平不満を述べるところなど、徹底した狂人ぶりが作品の演出を後押しする。「悪魔のいけにえ」を製作したばかりの頃のトビー・フーパーの勢いを感じさせる、恐怖映画の傑作だ。

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