アイス・コング              「評価 B」
動物保護協会に所属しているアリーは、ジャコ率いる密猟者集団と毎日のように激しい争いを繰り広げていた。だが一方で、野生動物カメラマンである彼女の父親ジミーは、アラスカに棲息するという雪男「アイス・コング」を写真に収めるために彼らと協力関係を結んでいたのだ。アリーには内緒で大型船をチャーターし、港の倉庫で出航の準備を整えるジミーと密猟者たち。しかしジャコたちの目的がアイス・コングを剥製にして売り飛ばすことだと知ったジミーは猛反対し、両者の関係は決裂。戦いの末、ジミーはジャコに抹殺されてしまった。やがて父を追って倉庫に駆けつけたアリーは、彼の死体を目の当たりにして愕然となる。彼女はその場にいたジャコを激しく責め立てたが、ジャコによって気絶させられ、強制的にアラスカ行きの船に乗せられることとなったのだ。長い航海の末、アラスカに辿りついた一行は、氷原にテントを構えてアイス・コングを待ち伏せし、見事捕獲することに成功する。そしてサンフランシスコへとアイス・コングを連れて帰るのだが、船が港に着いたとき、コングは檻を破って市街地へと飛び出していった…。
こいつはたまげた。「ダイナソー・ファイター カンフーVS巨大恐竜」や「ヴァンパイアX」の製作総指揮であるデヴィッド・ヒューイの新作ということで観る前から十分に心の準備をしていたはずなのに、いざ映画が始まると予想を遥かに凌いでいた壮絶な映像と脚本に終始笑わされっ放しだった。今考えれば「ダイナソー・ファイター カンフーVS巨大恐竜」も「ヴァンパイアX」も低予算ではあるが、ちゃんとそれを自覚しており、ある程度節度をわきまえた作品としての纏まりを見せていた。ところが、この映画は違う。登場人物たちが大型船に乗りこんで長い船旅に出るわ、氷に閉ざされたアラスカ平原を歩き回るわ、サンフランシスコの町で巨大怪獣を暴れさせるわ、挙句に金門橋を炎に包むわと、強烈なスペクタクル要素に満ち溢れたプロットを採用しているのだ。予算は前の二作と大して変わっていないというのに。当然これらの場面を実現しようとなると無茶に無茶を重ねることとなり、結果としてチープの一言では済まされないような非常に恐ろしい映像世界が展開してしまっているのである。
まずは船旅のシーンだが、予算が無いくせに大型船なんか話に組み込むものだから、航行中の場面はセットによる船内描写のみで、登場人物たちが船を乗り降りするカットも皆無。船室で会話していたと思ったら次のシーンではアラスカ雪原上を歩いているという驚異の場面転換が行われており、強い戸惑いを覚えてしまうこと必至だ。
アラスカ平原のシーンは勿論ロケなんか行われておらず、ほぼ全てのカットが背景に氷山の風景を合成しただけという頭が痛くなる映像処理で済まされている。しかも合成が不自然に見えないようにとの配慮か、アラスカの場面は登場人物の姿を間近で捉えたカットばかりで構成されているものだから、アリーが足を滑らせて崖下に落ちそうになるという緊迫感溢れるはずのシーンがまるで気の抜けたものになっていた。また数カットだけ登場人物の足元を映したものがあるのだが、その時映し出される地面は雪でも土でもなく、小さな氷が砂利のように敷き詰められているという、有り得ないにもほどがある代物だった。
そしてアイス・コングとの戦闘へと移るのだが、これがバズーカを撃つジャコの姿と苦しみもがくアイス・コングの姿が交互に映されるだけというモンタージュ技法バンザイな内容で、当然迫力は0。またアラスカ平原でアイス・コングと普通の人間が一緒に映るカットは一切用意されておらず、折角コングが登場しても巨大さを実感するのがコングを捕らえた後というのは、怪獣映画としてどうかと思った。
捕らえたコングをサンフランシスコに連れ帰ってからも、衝撃的映像は終わらない。コングが脱走したら偶然近くに空母が停泊していて、1分としないうちに軍用ヘリが出撃するという脚本もアレだが、ハンドメイド感に溢れた巨大タワーを必死によじ上るコングの姿も相当アレだった。それと散々サンフランシスコ周辺を練り歩いておきながら、都市破壊らしい都市破壊を拝めるのが金門橋で自動車事故を起こしたシーンの一つだけというのは如何なものか。あまつさえその金門橋のシーンですら実際に事故が起こる瞬間が映し出されるわけではなく、既にひっくり返った自動車の近くをコングがウロウロするというものだから笑いが止まらなかった。
話の大筋は「キングコング」からの転用なのでストーリーを理解するのだけは苦労しないものの、あらゆる意味で凡人の理解を超えた映像の数々には圧倒されるばかり。無茶もここまでやれば痛快だということを、しみじみと思い知らせてくれる作品だった。

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