非虐のヒッチ 「評価 C」
サンフランシスコに近い地方都市、クレセント。この町の道路では、ヒッチハイクによって遠くの町へ行こうとする家出少女たちの姿が頻繁に目撃された。そして今日もまた、一人の家出少女が赤いバンをヒッチハイクし、車の助手席へと座りこんだ。しかしこの車を運転するハワードという男、妹のシャロンが家出して母親を悲しませてからというもの、家出した子供を異常なまでに憎悪するようになっていたのだ。彼女が家出娘であることを知ったハワードは即座に残虐な人格へと豹変し、彼女を強姦した後に首を絞めて殺害。その死体を人気の無い場所に捨てると、平常時の人格で仕事場へと戻っていった。その後もハワードは同じ手口で犯行を繰り返すが、罪を重ねていくうちに、ハワードは残虐な人格を持つ自己に対して強い嫌悪感を抱くようになる…。
二重人格の男が辿る悲劇を綴ったサイコスリラー。ヒッチハイカーが次々と殺されていくという作品内容はエドモント・ケンパー事件を基にしたものと考えられるが、母親を憎悪していたケンパーとは対照的に、本作のハワードには強いマザコンの気質があるのが面白い。とにかくハワードの母親への依存ぶりは凄まじく、ヒッチハイカーを殺害する際は母親を悲しませた妹の名を連呼するわ、家に帰るとすぐに母親に対して弱音を吐くわ、挙句にうなされて寝付けない晩は母親と一緒のベッドで寝るわと、最早親思いの一言では済まされない有様だ。殺人鬼が重度のマザコンという設定は「サイコ」を始めとしたあらゆる映画で使用されている定番中の定番だが、本作では母親への甘え方を直接的かつ濃密に描くことで、思わず寒気を催すほどに恐怖感を盛り上げていたのである。
しかし一方で、殺害シーンは至って平凡な出来だった。殺害手段は全て絞殺だし、強姦シーンも女の上にハワードが覆いかぶさるのを少し離れた所から見せる程度。殺人鬼の人格よりも、普段の弱気でマザコンな人格の方が怖いというのは、スリラーとしてどうかと思った。
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