リビングデッド:ザ・ビギニング 「評価 B」
ジョンとジェニファーのカップルは夜の森で車を走らせていたところ、突然タイヤがパンクして立ち往生する羽目になった。すかさずタイヤの交換をしようと車の外に出るジョンだが、ふと車の前方に死体が横たわっているのを発見する。ジョンはゆっくりと死体に近づき、その安否を確認しようとした。ところがこの死体、人間を食らうゾンビだったのである。突然動き出した死体に襲われ、負傷してしまうジョン。彼はジェニファーと共に車を捨てて逃げ出したものの、気がついた時、彼の脈拍は完全に停止していた。ゾンビに襲われたことにより、彼自身の身体もゾンビに変化してしまったのだ。医者に診てもらっても治療は不可能と判断した二人は、森の中に佇む空き家に住みこむことを決めた。やがてジェニファーの身体もゾンビに変わり果て、永遠の命を持った二人の生活は何時までも続くように思われた。しかし彼らの蜜月は、そう長くは続かなかったのである…。
リビングデッドになったカップルの生活を文学的に綴った、ゾンビ映画の異色作。永遠の命を持ったことで生じる孤独感、身体が時間を追うごとに腐敗していくことに対する苦しみ、そして肉体を維持するために森に侵入した人々を食らうジョンとそれを潔しとしないジェニファーとの対立──と、自意識を持ったゾンビ特有の切実な悩みが淡々としたタッチで描写され、観る者の心を打つ。また映画の後半、森へ狩りに出かけたジョンがキャンプ中のカップルたちに襲い掛かる場面は、ジョンが女性を一人見逃す以外はまんまオーソドックスなゾンビ映画のワンシーンと言っても差し支えのない構図で、「もし他の映画に出ているゾンビもジョン達のように自意識があったら……」といった妄想を掻き立ててくれる意味でも非常に印象深かった。ゾンビ映画が好きならば、何かしら得るものがある作品と言えるだろう。
ただこの映画、二人だけの世界を描くことに力を入れているためか、周りの世界に無頓着すぎるきらいがあった。特に気になったのが警察の存在で、森で人間が次々と行方不明になっており、殺人の目撃者だっているはずなのに、警察は何時まで経っても動いている気配を見せないのだ。ピザのデリバリーにやってきた青年を殺しているので店側にすぐ彼の配達先を割り出され、警察が来そうなものだが、何故かなかなか警察は捜査に訪れない。二人の世界に没頭した作品内容なのでこれは些細なことと言えるかもしれないが、一度気にしてしまうと気に掛かってしょうがなかった。
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