宇宙からのツタンカーメン 「評価 D」
マカデン教授率いる調査団はツタンカーメン王の墳墓へと発掘に行き、多数の工芸品と共に「高貴な旅人」と称されているミイラが入った柩を発見した。これらの物品はカリフォルニア科学大学へと持ち帰られ、厳密な研究が行われることになったが、ミイラを調べるためにX線を照射したことが事件の始まりだった。この高貴な旅人、実は3000年間の眠りについていた宇宙人であり、X線を浴びると異常増殖するカビを全身に纏っていた。そこへX線を、しかも研究チームのミスにより常時の十倍の強さで照射してしまったものだから、カビが増殖して高貴な旅人は深い眠りから目覚めてしまったのだ。研究室に誰もいない時、ひっそりと柩の中から抜け出した彼は、取り敢えず母星と交信しようと柩に隠していた通信機を取り出した。ところが通信機本体はあったが、作動に必要な五つの水晶が何者かによって抜き取られているではないか。水晶を見つけた学生が無断で持ち出し、アクセサリーに改造しては知り合いの女性に配りまわっていたのだ。高貴な旅人は五つの水晶を持つ学生たちを追って学内を歩き回り、大学はパニックに陥る…。
ホラー映画の定番ジャンルであるミイラに、SFの要素を加味した珍作。高貴な旅人は真の姿こそ平凡なグレイタイプだが、ミイラの時のデザインは包帯から覗く巨大な目といい水晶に共鳴して光る腹部といい、なかなかの味わいだ。触れた人間に寄生して徐々に増殖していく殺人カビも、恐怖感を駆り立てるアイデアとしては悪くない。だがこの映画、これらを覆い隠してしまうほどに脚本と演出に問題があった。高貴な旅人は五つの水晶を集めるのと、通信機を作動させるためのエネルギー源の発見、二つの目的に沿った行動を同時進行で行う。そのおかげでミイラの動きに纏まりがなく、学内をフラフラしている彼の姿を見ていると、どうにも緊張感を削がれてしまうのである。また演出も殺人カビ関連の場面では冴えが感じられたが、高貴な旅人が学生を追い回す箇所は凡庸な出来で味気ない。おまけに一部で有名なラストカットは失笑すること請け合いなものだから、観終わった頃にはミイラのデザインや殺人カビのアイデアの秀逸さなんかは完全に頭の中から吹っ飛んでしまう。コンセプトから作品自体の出来まで、何もかもが壮絶な色物と呼ぶに相応しい作品だった。
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