ホワイト・ドッグ 魔犬          「評価 A」
売れない白人女優のジュリーは真夜中の道路で車を運転していたところ、突然飛び出してきた白いシェパードを跳ね飛ばしてしまった。慌ててシェパードを病院に連れて行ったが、幸いにも命に別状は無いと言う。そこでジュリーは、飼い主が見つかるまで犬の面倒を見ることにしたのだ。一緒に生活していくうちに、だんだんシェパードに愛着が湧いてくるジュリー。だがこの犬には、恐ろしい秘密があった。黒人を見ると無差別に襲い掛かる戦闘犬「ホワイト・ドッグ」となるべく、幼い頃から調教を受けていたのである。シェパードが映画の共演者である黒人女性に噛み付いたことから、その異常性に気づいたジュリーは、猛獣調教師のキーズにシェパードの更正を依頼した。黒人であるキーズはこの仕事を人種差別への抵抗と考え、一際熱心に調教に臨む…。
「ショック集団」のサミュエル・フラー監督が、黒人差別をテーマに製作したサスペンス映画。黒人だけを襲うホワイト・ドッグという設定はあくまで監督の創作らしいが、「子犬の頃から黒人に殴られ続けることで黒人に対して敵愾心を植えつける」調教方法から、「農場経営者が逃げた奴隷を捕まえるように調教したのが始まり」という歴史まで、明確かつ詳細な説明がなされている。そしてそれに加えて、本作はシェパードの演技が秀逸。愛嬌を振りまいてジュリーにじゃれつく姿と、鋭い牙を剥き出しにして黒人に襲い掛かる姿はとても同じ犬には見えないほど。その恐ろしいまでの豹変ぶりは、先述の設定に対して十分すぎるほどの真実味を与えていた。
また本作、上映時間の半分以上を費やしてキーズがシェパードを調教していく様子が描かれるが、キーズがシェパードの檻の中に手を差し伸べるカット、シェパードが檻の中で激しく暴れるカットなど、事あるごとにスリリングな演出が施されるので観ていて全く飽きさせない。殺される黒人男性についての処理があんまりにも思われたが、テーマの深さのみならず映画としても面白い、動物映画の傑作である。

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