ティックス             「評価 B」
カリフォルニア州の山地では、心に問題を抱えた少年少女を集めたサマーキャンプが毎年行われていた。不登校の少年タイラーも父の勧めでこのキャンプに参加することになったのだが、当然キャンプに来ているのは一癖も二癖もある問題児ばかり。周りの人間に馴染むだけでも一苦労という有様だった。だがそんな中、キャンプ場に来ていた犬が突然死する事件が発生した。病院に連れて行ったところ、犬は体中の血が抜き取られていたことが判明。しかもその体内からは、拳大もある巨大なダニが飛び出してきたではないか。実はキャンプ場からそう遠くない場所では麻薬の栽培が行われており、成長促進剤であるステロイドを浴びたダニたちが異常な成長を遂げていたのである…。
「放射能X」や「黒い蠍」「巨大生物の島」など、巨大化した生物が徒党を組んで襲い掛かってくる映画は数多くあるが、巨大ダニの大群が出てくる本作はそれらの中でも極めて特殊な部類に入る。何せ巨大になったと言っても、その大きさはせいぜい3インチ程度。踏みつければ容易に倒せるサイズで、巨大化によって生じる威圧感など無きに等しいのだ。一応クライマックスでは2メートルもの大きさがある超巨大ダニが人間の体を内側から突き破って登場するものの、あくまで単体での御登場であり、これが群れを組んだりはしてこない。大抵の巨大生物群映画では、登場する各生物が一匹でも十分にパニック映画の主役を張れるサイズにまで巨大化していることを考えると、この点は非常に異色である。ダニという生物は、そのままのサイズだと殺傷能力に乏しい。しかし逆に、あまり大きすぎるとそれがダニだと認識するのは難しくなる。だからこそダニを過剰に巨大化させるのは避けたと推察されるが、この微妙なサイズに設定したことによって本作は、巨大生物群映画ではいまいち実感しづらい「群れの恐怖」を上手く醸し出すことに成功していたのだ。
またこの映画、生物の大きさのみならず、主人公タイラーの性格まで他の生物パニック映画とは一味違っていた。普段は大人しい振る舞いをしている彼だが、小さなダニを捕まえたらティッシュで包んで焼き殺したり、ブヨブヨした塊を見つければハンガーで突き刺してみたりと、やたらとエキセントリックな行動が目立つのである。他の登場人物らが割とパニック映画のテンプレートに則った性格をしている分、彼の異常性は余計に際立って感じられ、本作が持つ独特さを一層強く押し出していた。

TOP PAGEへ