ブレイン 鮮血の全国ネット 「評価 C」
メドウベイルの町で放映されているローカル番組「自由なる思考」。心理学研究所のアンソニー・ブレイク博士が麻薬や酒に走る若者たちを正しい方向に導くという、如何にも退屈そうな内容なのだが、これが出来の悪い子を持つ親たちに受けて大人気。あっという間に視聴者数を増やしていき、今後全国ネットで放送されることも決定した。ところがこの番組には、恐るべき秘密が隠されていた。ブレイク博士は巨大な脳髄の怪物を飼育しており、番組を見た人間は怪物の放つ催眠波を受け、たちどころに洗脳されてしまうのである。更にブレイク博士と怪物はこの能力を全国ネットで使うことによって、アメリカ国民全員を手中に収めようとしていたのだ。天才青年のジェイムスはふとしたことから彼らの陰謀を知ることとなるのだが、そのおかげで洗脳された町中の人間から追い回される羽目になってしまった…。
「素行は悪いけれど実はIQが高い。しかも女にモテモテ」というボンクラ青年たちの妄想を具現化したような主人公が、悪辣な陰謀に立ち向かう集団催眠系SF映画。登場する脳味噌モンスターは最初は尻尾が生えているだけのでかい脳味噌だったが、成長するにしたがってどんどん奇形化、最終的には脳味噌の表面に大きな顔まで浮かび上がり、巨大な口で人間を丸呑みにしていった。またこのモンスターを利用している(利用されているようにも見える)ブレイク博士もただの人間でないことが後半で判明するのだが、それではこの脳味噌モンスターやブレイク博士が結局何者なのかというと、それが何一つ明かされずに映画は終わってしまう。全ての事件が解決した後、ラストカットで死んだはずの怪物がアップで映されるのはモンスター映画に良くある手法だが、本作の場合は怪物の正体が全く分からなかったこともあってか異様な不気味さが醸し出されていた。
説明されないがために違和感を覚える箇所は他にも存在し、例えばジェイムスが一度ブレイクたちの手中に完全に収まったにもかかわらず、すぐに怪物の洗脳から逃れられた点。おそらくジェイムスの知能指数が高いことが関係しているのだろうが、それが自然に分かるようにするためには、ジェイムスの頭の良さを見せ付ける描写がもっと欲しかったところ。冒頭の日常場面でやっていることと言ったらイタズラ小僧レベルのことばかりだし、クライマックスの戦いでナトリウムを使ったのも完全に偶然によるものだ。台詞で「知能指数が高い」と語られても、これではどうも説得力に欠けるのである。
しかしこういった説明不足に感じられる点が、作品全体に奇妙な雰囲気を与えているんだから困ったもの。「周りの住民が全て敵」という「スペースインベーダー」にも通じる絶望的シチュエーションでありながら詰めの甘さの目立つ脚本が、この不安定さが添えられたことによりぐっと締まりが良くなっていたのである。「分からないことの怖さ」を、まざまざと見せ付けてくれる作品だった。
(ちなみに本作、劇中でジェイムスが便器にナトリウム粉末を流すというイタズラをやっているので、エンドロールの冒頭で「警告:トイレの場面はドラマとして演出されたものです。ナトリウムと水は化合すると危険ですので真似しないでください」という文が流れる。こんなどうでもいいところで気が利いているのも、説明されなかった点の不可解さを際立たせていた)
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