ベイビーブラッド             「評価 D」
北フランスのローマン・サーカスで働く、猛獣使いの美女ヤンカ。彼女の運命が狂わされたのは、中央アフリカで発見された謎の生物がサーカスへ運ばれてきたことを始まりとする。或る晩この怪物は檻を抜け出し、不気味な触手を用いて彼女の体へ種を植え付けた。ヤンカは怪物の子どもを胎内に宿したことを知り、誰にも見つからないようにサーカスを抜け出した。それから数ヵ月後、フランス各所を転々としていたヤンカは重度のノイローゼに陥っていた。怪物の胎児が頻繁に「血が飲みたい」だの「あの男を殺せ」だのと彼女の脳内に命令してきて、それに従わないと胎児は激しく暴れ回るのである。殺人なんかやりたくない。とは言え自分の腹を刺す勇気も無く、嫌々ながらも殺人を犯し、殺した男の血を啜る日々を送るヤンカ。やがてやつれ果てた彼女は、川に飛び込んで自ら命を絶とうとした。この自殺は失敗に終わったものの、胎児に「彼女に死なれては自分が誕生することもできない」と考えさせ、ワガママを控えさせるという思わぬ効果を挙げた。かくして対等の立場になった二人の、何とも奇妙な旅が始まったのである…。
「妊婦に男の血を啜らせる胎児」という、どう見てもC級スプラッターにしかならない題材を用いて製作されたロード・ムービー。初めは何かと対立していたヤンカと胎児が、日々の経過と共に互いの絆を深めていく過程を、実に淡々とした描写で綴っており、派手な流血シーンが頻出するにもかかわらず穏やかな空気に包まれているという何とも不思議な作品だった。またヤンカに種を植え付ける怪物が全く画面上に出てこないのを始め、ヤンカが急に何の罪もない人々をためらいも無く惨殺するようになったり、街の人々が全身血まみれのヤンカと会話して何の疑問も感じなかったりと、各描写から受ける違和感もこの奇妙なムードを加速させている。タイトルから「悪魔の赤ちゃん」みたいなホラー映画を期待してしまうと度肝を抜かれること請け合いの映画だ。

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