変核細胞 ジュベナトリックス 「評価 B」
往年の大女優ルースは何とかして以前の若さを取り戻そうと、大学教授のグレゴリーに資金を提供して若返りの薬の開発を行わせた。長い研究を経た結果、グレゴリーは「セラム」という成分に脳の遺伝子を操作して老化を逆行させる効果があることを発見する。早速セラムをルースの体に注入したところ、たちまち彼女の体は数十年前の若さを取り戻した。かくして研究は実を結んだかに見えたが、このセラム、とんでもない副作用を秘めていた。一度その力で若返ったら最後、常に大量のセラムを摂取し続けない限り、たちまち醜い怪物へと豹変してしまうのである。大量のセラムを得るためには人間の脳から抽出するのが一番いいのだが、掻き集めた死体から採取してもその量は微々たるものだった。やがて怪物化に耐えられなくなったルースは、生きた人間を殺害してセラムを奪い始める…。
「若返りの薬が招いた悲劇」という基本コンセプトが、「蜂女の実験室」や「ザ・フェイス」を彷彿とさせるSFホラー映画。怪物化したルースの姿は「マーズ・アタック!」の火星人を一段とグロテスクにしたような核弾頭級におぞましい代物で、頭皮が剥げて顔が歪んで──と変身過程を事細かに描写していたのも気色悪さに拍車をかけていた。また人の形を保つために生きた人間からセラムを奪うというプロットは、それ自体は吸血鬼モノに則っていて別段珍しくも無いものの、その奪う方法が人間の頭をかち割って脳味噌を取り出すというエグいことこの上ないものでインパクト抜群だった。
しかしこの映画、単なる悪趣味で(勿論それもあるだろうが)ルースを醜く描いたわけではない。ストーリーの中心に据えられているのはルースと執事のウィリー、それとグレゴリーとによる三角関係話なのである。何だかんだ言っても本作は、怪物化したルースのおぞましさよりも、そんな彼女に純粋な愛を注ぎ続けた二人の男の方が印象に残る内容になっている。怪物化したルースがあまりに酷いデザイン&アクションをしているからこそ、二人の愛の深さを一層深く窺い知ることができたのだ。高尚さと悪趣味の共存する歪さが、不思議な余韻を残してくれる作品だった。
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