THE THING 「評価 C」
深い森の奥深くに存在する、古代人が遺した洞窟。そこは不思議な力によって霊界と繋がっており、その危険性から長い間岩の中に隠されていた。だが大学の調査団が洞窟の前の岩を除けてしまったことにより、穴の奥から悪霊が出現したのである。悪霊は調査団の連中を始末した後、森林警備隊のダニーとジャスティンを狙い始めた。二人は迫り来る怪物の正体も分からないまま決死の攻防を繰り広げるが、遂に単独行動にでたジャスティンが悪霊の餌食となってしまう…。
「古代人の洞窟から謎の怪物が出てくる」というシチュエーションが「THE THING 未確認生命体U.M.A.」を彷彿とさせるが、まさか本作の邦題の由来はこれから来ているのだろうか? まあそれはともかくとして、本作は劇中で何度も言及されている森林火災が一度も画面に出ないことからも明らかなように、物凄く低予算なモンスター・パニック映画である。だが作品の顔である悪霊からは、そんな予算の低さを物ともしない素晴らしさが秘められていたのが好印象だった。この悪霊、監視塔を倒そうとして失敗する描写もあることからパワーについては常識レベルに留められているようだが、死体の生首にリンゴをくわえさせてテーブルの皿の上に乗せたり、死体を串刺しにして道のど真ん中に野ざらしにしたりと、怪物のくせに殺す手口に遊び心が入っていたのが何よりも特徴的。他にもダニーたちが立て篭もる監視小屋へ来る度に屋上に登ってサイレンを回すなど、とにかく子供っぽい行動が目立つのである。顔がいかついダークヒーロー然しているものだから、そのギャップには魅力を感じずにはいられなかった。またモンスターではないが、ダニーの飼っているオウムのホッピーが普通に人間との脈絡ある会話を成立させ、驚異的知能を見せ付けていたのも隠れた見所だ。
一方、脚本は主人公ダニーの成長物語といった風に展開されていく。ダニーは冒頭、酒を浴びるように飲んで自暴自棄になっていた。自分の過失で大の親友ジュリーを死なせた上、自分にその事実を打ち明ける勇気が無いが故に、ジュリーが自業自得の死を遂げたと世間に誤解され続けているからだ。それが同僚のジャスティンに悩みを打ち明け、怪物と対決していくうちに現実から逃げないと決意を固めるようになっていく──というのが本筋になるのだが、問題はこの決意への契機が今一つ不明瞭なところである。ジャスティンは別に彼女が臆病なことを責めてはいないし、彼女の過失でまた誰かが死ぬなんて展開も存在しない。そのため映画の後半、怪物に立ち向かう際に突然「私はもう逃げない」なんて言い出す彼女にはどうも違和感を覚えてしまうのだ。
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