ゾンビキング 「評価 D」
メキシコプロレス界の永遠のカリスマ、エル・サント。彼は50年代から60年代に渡ってマット上の不敗記録を維持し続け、まさしくメキシコ国民の憧れの的だった。また彼は数多くのメキシコ産怪奇映画に自分の役で出演し続け、弟分のレスラーであるブルー・デーモンと一緒に吸血鬼やエイリアンたちと死闘を繰り広げていたのである。彼の主演したシリーズは日本では一部のマニアにしか知られていないものの、欧米ではビデオなんかも発売されており、未だにカルト的人気を得ているという。そんなサント映画をパロディにしたのが、この映画「ゾンビキング」だ。
ゾンビの大群が跳梁跋扈するようになった未来。人気レスラーのユリシーズは、かつての相棒ティキがゾンビ軍団との格闘ショーをするというので、弟分のブルー・セイントや愛人のメルセデスと共にその会場へとやってきた。ところがショーの最中、会場の外にいた女がゾンビたちに襲われ、食い殺されるという事件が発生。ティキがショー用に連れてきたゾンビたちが真っ先に疑われたものの、彼らはティキの催眠術で飼い慣らされており、滅多なことで凶暴化はしなかった。となると犯人は別のゾンビ集団ということになるのだが、人里離れた場所に生息するゾンビたちを見つけ出すのは至難の業。そこでユリシーズたちは、ティキのゾンビを野に放して別のゾンビ集団の居所を探らせることにした。ティキのゾンビは森をさまよい歩いた末、怪しげなアミューズメントパーク跡に辿り着く。早速内部へと乗り込むユリシーズと仲間たちだったが、そこには地上制覇を企む悪のレスラー・ゾンビキングと、彼の部下たちが待ち構えていた…。
ユリシーズとゾンビキングの被っているマスクが共にエル・サントのマスクの色違いであり、また弟分の名前がブルー・デーモンならぬブルー・セイント。それに主人公たちの戦う相手が人外の軍団とあっては、サントの名を知るものならば狂喜せずにはいられないこの映画。実際、正義の覆面レスラーたちが一致団結してゾンビ軍団を片付けていくというカオスなクライマックスには、サント映画の面影を感じずにはいられなかった。
しかしこの映画、サントを知らない人間に楽しめるかどうかは甚だ疑問である。ゾンビ映画界の御本尊ジョージ・A・ロメロが提供しているとは思えないほどゾンビの描写が未熟で、ゾンビたちは目の周りを黒く塗っただけの手抜きデザインをしているし、人肉を食らう場面も千切り取った腕や足が見えるだけで風情に欠ける。またストーリーも粗雑極まりないもので、登場人物たちの設定のほとんどが台詞で説明される上、クライマックスは何の伏線も無しに衝撃の事実が明かされていく展開の連続で頭がクラクラしてくる。要するにこの映画、サント映画のパロディであること以外、何一つ楽しめるような要素が見当たらないのだ。いくらロメロが提供しているからとは言え、なんでサントの知名度が1%にも満たない日本でこの映画がリリースされたのだろうか。アルバトロス・コアの飛ばしぶりには毎度のことながら驚かされるばかりである。
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