地獄のモーテル 「評価 A」
カリフォルニア州グレインビル。テリーは彼氏の運転する車に乗り、暗闇の小道を進んでいた。ところが車は突然事故に遭い、二人は気を失ってしまう。テリーが目を覚ますと、そこは町外れのモーテル「MOTEL HELLO」。ネオンサインの最後の「O」だけが消えかかっているので夜になると「MOTEL HELL」に見える、このモーテルの主人・ビンセントが、事故現場から彼女を救い出してくれたのである。話によると彼氏の方は既に亡くなったらしく、テリーは嘆き悲しんだ。体と心の傷が癒えるまで彼女はモーテルに滞在することにしたが、実はこのモーテルでは捕まえてきた人間を潰すことで、夜な夜な人肉ベーコンが製造されていたのだ…。
「恐竜の島」「地底王国」のケビン・コナー監督によるホラー映画。人肉からベーコンを作るというカニバリズム的な要素が含まれているものの、製造する様子が殆ど描かれない上、ベーコンを食べるシーンも実にあっさりとした様子。他のカニバリズム映画ではねちっこく描写されている箇所が、この映画ではあまりにも軽く扱われているのだ。
しかし、だからと言って本作を侮ってはいけない。本作では人肉に加工する前の段階に非常にオリジナリティ溢れた工夫を施しており、それによってカニバリズム映画ファンの心はガッチリと掴まれてしまうのである。その工夫とは、ズバリ「人間農場」だ。
ビンセントと妹のアイダは、近くの道路を通りかかった人々をあの手この手で誘拐してくる。この時に使われる方法もまた、道路に虎鋏みを仕掛けてワゴンを転倒させたり、牛の絵が描かれた衝立を道路の真ん中に置いて、やってきた運転手が車を降りて衝立をどけようとした隙に催眠ガスを吸わせたりと、色々と手がこんでいて面白い。そんなこんなで捕まった人々はモーテル裏の畑に運ばれ、首から下を土中に埋められて頭に麻袋を被せられる。ビンセント曰く「こうして長い間放置することで、肉は熟成される」そうで、麻袋がずらりと並べられた光景は、ぱっと見キャベツか何かが栽培されているようだ。また埋められた人々が助けを呼ぶと困るので、ビンセントは予め彼らの声帯を切り取っている。おかげで彼らは「ゴゴゴガガガギギギ…」と声にもならない声をあげることしかできず、夜な夜なか細い声を発する彼らの姿は地獄絵図そのもの。そして肉の熟成が完了すると今度は収穫に取り掛かるのだが、この方法もまた独創的。熟成した人間たちは麻袋を外され、回転する渦巻きと点滅する四色のライトが合わさった「催眠装置」を眼前に置かれる。これを見ることで埋められた人間はトリップ状態に陥り、その間にアイダが彼らの首に縄をかける。縄は彼女の車に繋がれており、それを走らせることで彼らを絞め殺し、また地面から引っこ抜くのである。苗集めから収穫まで、実に考えられたシステムになっていて、如何にビンセントが人肉加工に命を費やしているのかが良く分かる。カニバリズム映画に職人芸的な面白さを盛り込み、それを限界まで極めたのがこの映画と言えよう。
他にもこの映画には見所が盛り沢山で、例えばビンセント扮する「怪人豚男」。豚のマスクを被ってチェーンソーを構えたビンセントのスチールは割と有名なので、本作を観たことが無い人でも一度は目にしたことがあるかもしれない。そんな豚男、チェーンソーを振り回して弟のブルースを八つ裂きにしようとするのだが、ブルースも近くに置いてあったチェーンソーを拾い上げたことから、世にも珍しい「チェーンソー・チャンバラ」へと発展していく。ギュインギュインとけたたましい音を立ててチェーンソー同士がぶつかり合う様は、チェーンソー好きには垂涎モノだ。
映画の後半、埋められていた人々が畑を抜け出すところも見逃せない。彼らはビンセントとアイダに逆襲を開始するのだが、怪異な鳴き声をあげて集団で迫り来る姿はゾンビ映画さながらで、ある意味ビンセントたちより数段怖い。
そして忘れてはならないのがドライブイン・シアターの場面で、上映される映画がなんとあの「大怪獣出現」。巨大カタツムリが画面にばっちり出てきて、B級映画好きとしては歓喜せずにはいられない(それにしてもこの「大怪獣出現」、ロジャー・コーマンの「ピラニア」でも劇中映画として使用されていた。何か引っ張りだこにされる理由でもあるのだろうか)。
ラストで脳天気なカントリー・ミュージックが流れ、それまでの雰囲気をブチ壊しにするのはどうかと思うが、B級映画ファンを満足させる要素をテンコ盛りにした作品内容には感服せねばなるまい。ケビン・コナー渾身の一作である。
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