死の王 「評価 C」
ユルグ・ブットゲライト。伝説の死体フェチ映画「ネクロマンティック」を撮り、一方で「キラーコンドーム」の特殊効果も担当したりする、ドイツ映画界でも指折りの変態監督だ。彼の作品は一貫して陰惨で退廃的。そのため気色悪さがじわりじわりと迫ってきて、ホラー映画に慣れた人間でも思わず胃の中身を戻したくなってしまうのだ。
そんな彼が89年に製作した「死の王」は、人間の生と死を題材にした映画だ。
月曜日、会社を辞めた男が風呂場で服毒自殺を図った。男は死ぬ前に手紙を何通か出しており、火曜日にある男がその内の一通を受け取った。男はダイアン・ソーン主演の拷問映画を観ている途中、妻を射殺する。そしてこの一部始終をテレビで観ていた人間が、首を括った。水曜日、同じく手紙を受け取った女が、不仲のあまり妻を殺してしまった青年の自殺を手伝った。ここから映像は急変し、突然ドイツの風景をバックに謎の人名がテロップで次々と表示されていく。「ハイケ・フリードマン 23歳教師」「ハインツ・クライナート 31歳実業家」「ベルント・プフラグ 11歳小学生」「イグナツ・ホファー 83歳農業」……。こんな感じで十五人ほどの名前と年齢職業が表示される。そして、木曜日。同じような風景に「アルチュール・ヴィーゲナー 71歳役者」とテロップが重なる。ただそれだけ。金曜日、欲求不満な老婆のもとに、チェーンレターが届く。このチェーンレターは生を放棄する者によって広げられており、手紙を誰かに転送したら命を絶つようにと書かれていた。しかし老婆は死を拒絶。手紙をバラバラにしてしまった。別の場所では女性が大量殺人者の心理について語り、その一例を記録したフィルムが土曜日まで流される。そして最後の日曜日、鬱気味の男が自ら命を絶ち、少女が死の王の絵を描いたところで映画は終わった。
月曜日の男が自殺するまでの不気味なカメラワークや、水曜日の辺りから破綻を始める展開、各場面の間に挿入される死体が腐敗し土に還っていく映像など、観る者を不安にさせる要素に満ち溢れている作品。その不安感は映画の進行に伴って蓄積して行き、日曜日の辺りになると劇中の男みたいにすっかり鬱屈した気持ちに染まりきってしまう。恰も観客を自殺に追いやることを意図しているかのような、非常に危険な属性を帯びた映画だ。
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