黒魔術のいけにえ 「評価 D」
9月9日の9時に生を享けたチェンは、今年で27歳。9が六つ重なるということで、知り合いの呪術師ロクからは「今年は不吉なことが起きる」と言われていた。だがチェンはそんなことを気にも留めず、いつも通りにタクシー運転手の仕事をこなしていた。そんなある日のこと、チェンは夜道を行く若いカップル・リンとサリーをタクシーに乗せた。しかしこのカップル、実は黒魔術で呪い殺された幽霊だったのである。一年に一度の清明節の時にだけ現世で会える彼らだが、折角のその時をお節介なチェンによって邪魔されてしまった。怒った彼らはチェンを呪い、チェンは口から大量の蛆虫を吐いてもがき始めた。この事態を悟ったロクは術を使い、カップルの霊を傘に封じて事を収める。傘はサリーの姉・スザンナに持ってもらうことになり、回復したチェンは彼女の住むタイへと向かった。だがそこでスザンナに一目惚れしたチェンは、家庭を持つ身でありながら彼女と愛し合ってしまったのである。三ヵ月後にまた会う約束をする二人だったが、チェンは香港に帰るや否や家庭の大切さを思い出し、スザンナのことなどすっかり忘れてしまった。やがてスザンナからタイ行きの航空券まで送られてくるが、チェンはまるで相手にしない。これに怒ったスザンナは、悪の呪術師バドにチェンを呪い殺すよう依頼した。バドの黒魔術により、日に日に衰弱していくチェン。彼を救うべく、ロクの知人である呪術師・鬼王ベンはバドの呪いに戦いを挑む…。
「東南アジアの女性を怒らせると呪われます。皆さん彼女たちをぞんざいに扱わないようにしましょう」というメッセージの込められたアジアンオカルト映画。蛆虫を吐き出したり、生魚や鶏を貪ったりと、呪われたチェンの症状が尽く悪趣味ではあるが、全体的に描写が抑え目で、グロテスクさで言えば「スクワーム」どころか「人蛇大戦 蛇」の域にすら達していなかった。加えてこの映画、至る所から覗かせているチープさが作品の恐怖感を盛り下げているのがいただけない。ベンがバドの様子を透視する場面では、太極印が火花を上げてグルグル回転するという謎の特殊効果が入る。バドの掌に呪文が浮かぶ場面では、合成が不自然で呪文が文字通り浮いてしまっている。ベンが火の玉を放ってバドを急襲する場面では、火の玉に釣り糸がハッキリ見えてエド・ウッド──と、失笑確実の場面がこれでもかと出てくるのである。パッケージのエグさから激しい嫌悪感を期待していると、大きく失望することだろう(ただクライマックスのベンとバドの魔術対決だけは、透視しながら戦っている両者の様子をモンタージュを駆使して巧みに表現していて楽しく観ることができた)。
TOP PAGEへ