13日は金曜日PART25 ジャクソン倫敦へ    「評価 B」
本作は邦題からも明らかであるように、ジェイソンもどきの殺人鬼ジャクソンが登場する「13日の金曜日」のパロディ映画である。しかし、単なるパロディと侮る勿れ。なんとこの映画、有名な映画のキャラクターを借りることで、規定された運命から逃れられない者の顛末を描いたSF悲劇だったのだ。
醜い顔をホッケーマスクで隠した、世にも恐ろしい殺人鬼ジャクソン。今まで数多くの人間を殺してきた彼は、このたび実の父親が住む故郷ロンドンへと帰ってきた。早速凱旋記念にと、ジャクソンはパーティー会場の若者を皆殺しにしようとする。だが会場で出会った女性シェリーによって、彼の心は大きく揺らいだ。盲目である彼女は、ナイフを構えたジャクソンを前にしても身じろぎ一つしない。それどころか彼に優しい声をかけてきたのである。アメリカのキャンプ場で母親を失い、父親からは虐待を受けてきたジャクソンは、他人からの愛情に餓えていた。初めて人の真心に触れたジャクソンはシェリーに魅かれ、殺人も忘れて彼女とベッドインしてしまった。それからも彼女との関係は続き、幸せに満ちた日々を過ごすジャクソン。その中で彼は、今まで無意味に人を殺し続けてきた人生に疑問を持つようになった。やがて人殺しをやめようと決心するジャクソンだったが、そんな彼を父は笑った。「おまえは殺人鬼。人を殺す宿命から逃れられないのさ」
本作の世界ではジャクソンを主人公にしたホラー映画が大ヒットしており、言わばジャクソンは「映画の中から飛び出してきた存在」である。製作者によって殺人鬼として生み出されたジャクソンは、映画の外の世界でも冷徹に人を殺し続けることを宿命づけられている。そして彼に襲われる若者達もまた、抵抗空しく殺される宿命を負わさせている。幾らジャクソンが人を殺すことに空しさを感じていても、若者達がジャクソンに応戦しようとしても、これらの宿命からは決して逃れられない。
そう、本作では「運命が本人の意思とは無関係に決められている」カルヴァンの予定説のような世界が展開しており、この映画はそんな中で運命から逃れようと必死にもがき苦しむ者たちの姿を、突き放した視点から残酷に映し出しているのである。先述のジャクソンの父親の台詞や、逃げようとする女性にジャクソンが「君は僕から逃げきれないよ。たとえ逃げようとしても木の根っこにつまづいて追いつかれる」と予言する場面、殺人に疲れきったジャクソンがある物を見て絶望するラストなど、作品の至る所でこのテイストは顕著に見ることができる。
演出が単調で各殺人シーンが印象の薄いものになっているのは頂けなかったが、邦題を見て馬鹿映画と思っていたので、予想外の不意打ちを受けた映画だった。
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