バルティック・ストーム 「評価 A」
冷戦も終わった1994年。かつてソ連で兵器開発を行っていた科学者が、自らが開発した生物兵器と共に西側へ亡命を図った。ところが彼の乗った客船エストニア号が謎の沈没事故を起こしてしまう。政府は死者800人以上も出したこの事故を高波による天災が原因としたが、科学者の亡命を追っていた女性記者は、事故の裏に北欧各国の政府の陰謀が隠されていたことを突き止める…。
「エストニア号沈没」という架空の事件を記者に追わせることで、冷戦の後に残る各国の禍根を描いた本作。何よりも舌を巻くのは、その構成の緻密さである。冒頭30分で沈没事故の大まかな流れを追っていき、その後女性記者が真相を探るという構成になっているのだが、前半パートは様々な登場人物が正体も分からないまま各々の行動を起こしていき、混迷した様相を見せる。はっきり言って、前半パートはワケが分からない。しかし記者が政府の妨害を受けながらも事件の核心へと迫るにつれて、前半パートで顔を出していた謎の人物達の正体が次々と明らかになり、バラバラだった点が一つの線に繋がっていく。その過程を、我々観客も記者と一緒に味わうことができるのだ。しかも本作は前半が非常にゴチャゴチャしている分、一本の線になった時の感動と言ったらなかなか味わえるものではない。エストニア国防省やアメリカのペンタゴンなど、政府高官のいる建物が映されると決まって「ジャン、ジャジャン!」とイカニモ偉そうな効果音が流れたり、画面が幾つかに分割されるときに「カラカラカラ…」と音が鳴ったりと、時折見られる緊張感を削ぐような演出が困りものだが、脚本や構成の巧みさならばかなりの水準に達している作品である。
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